東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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ミジャグジ(様)

 ……諏訪子の体は完全に焼失していた。残っているのは眼玉のついた奇妙な市女笠だけだ……。

 

「う……。あ、あつい……」

 

 雛がうめき声を上げる。雛は一面焼け野原になった山の麓にいながらなぜかまだ息をしていた。

 

「ふん。どこまでも小癪な蛙よ。死ぬ寸前に矮小な神たちを助けんと能力を発動するとはな」

 

 ナーギニーが周囲を見渡しながら独り言をつぶやく。……助かっていたのは雛だけではなかった。穣子も静葉も生きている。は炎から守るように建った土の壁が彼女たちを救ったのだ。それは言うまでもなく諏訪子の能力により創造されたものである。

 

「命を賭してこんな役にも立たない連中を救うとは物好きな蛙よ。だが、その努力に何の意味もない。今すぐこの三体もお前の元に送ってやるぞ。まずはあの緑髪からだ」

 

 ナーギニーは不敵な笑みを浮かべて雛に近づくと鋭い牙の生えそろった口を大きく開ける。

 

「う……。体が全く動かない……」

 

「残念だったな。小童よ。お前は何一つ守れんかったわけだ。この下賎な神たちも、お前自身も、そしてこの山も!」

 

 ナーギニーが雛を噛み殺そうとしたときだった。ナーギニーの尾に熱い痛みが押し寄せる。それもひとつではない。無数の熱い痛みがナーギニーの尾を襲う。

 

「う、うぐ。な、なんだ!?」

 

 ナーギニーは痛みの原因を探らんと自身の尾を見るために振り返る。

 

「な、なんだ!? こ、こいつらはぁああああああ!?」

 

 ナーギニーの尾には無数の白蛇が群がっていた。大きさはマムシ程度でそれほどでもないがただただ数が多かった。無限とも思える数の白蛇が一斉にナーギニーに襲い来る。ナーギニーは体を大きく動かして振り払おうとするが、振り払えども振り払えども、白蛇たちは休むことなく攻撃を加えてきた。

 

「一体何千、いや何万匹いるのだ……!?」

「八百万さ」

 

 ナーギニーはその声にびくっとする。それは確かに先ほど焼失させた者の声だった。声をする方に視線を向けると、これまた、無数の白蛇が奇怪な市女笠を運んでいる。そして、無数の白蛇が融合し、人の姿を形作る。そう、洩矢諏訪子を。

 

「き、貴様……!? どうやって……!?」

「祟神をなめるなよ、龍もどき。こんなやつが龍を名乗るだなんておこがましいにもほどがある。みんなもそう思うだろ?」

 

 諏訪子はナーギニーに群がる白蛇たちに向かって問いかける。

 

「……祟神だと? それが貴様の正体か……!」

「そうだよ。あらゆる地方の土着神『ミジャグジ様』の集合体……それが私。純粋な人間の信仰から生まれたのが私なのさ。だから、私はそう易々と負けるわけにはいかないんだ。私の負けは人間の信仰が負けることを意味するからね。お前程度に敗北するわけにはいかないんだよ」

「なんだとぉ!?」

「下賎な妖よ。特別に見せてやる。守矢神社の神の姿を……土着信仰の頂の姿を!」

 

ナーギニーに襲い掛かっていた白蛇たちが諏訪子の元へと集まっていく……。そして、諏訪子の体と一つになり始めた。諏訪子の体はどんどんと膨らみながらその形を変えていく。

 

「あ……、あ……。な、なんて大きさ……なの……!?」

 

 鍵山雛は驚愕する。膨れ上がった諏訪子の体は巨大な白蛇になっていた。そのサイズはナーガ・ラージャであるナーギニーをも軽く上回る。小さな山よりもよほど巨大だった。

 

「ず、図体だけ変わったところで、わ、妾の敵ではない。わ、妾は龍なのだぞ!?」

 

 動揺したナーギニーの強がる声が焼け野原に響き渡る。

 

「喰らえ。妾の龍たる証を……!」

 

 ナーギニーは焦った様子でドラゴン・ブレスを巨大白蛇となった諏訪子に撃ち放つ。しかし……。

 

「フン」

 

 諏訪子が軽く鼻息をドラゴン・ブレスの炎に向けて吹きかけた。……軽くといっても、もはやそれはどんな嵐よりも強い力を内包している。鼻息に煽られた炎はナーギニーへと逆流した。

 

「そ、そんな馬鹿な……! わ、妾のブレスが鼻息だけで……!? う!? あぁああああああああああああ!?」

 

 叫び声を残してナーギニーは自身の放った炎に飲み込まれて消滅する。ナーギニーの消滅を見届けた諏訪子は巨大白蛇から元の少女の姿に戻ると、その場で仰向けに倒れる。

 

「はぁ、はぁ……。久しぶりに疲れたなぁ」

 

 諏訪子は眼前に広がる青空に向けて言葉を放る。

 

「でもさ、許せないだろ? あんな知性も道理も成熟しきってないようなやつが龍を名乗るなんて……。……龍神、お前もそう思うだろ?」

 

 諏訪子は大地に手を触れながら、何者かに向けて呟くのだった。


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