「遅いぞ、射命丸! 今まで何をしていた!?」
天魔が射命丸文を叱責する。射命丸は後頭部をかきながら苦笑いを浮かべる。
「いや、申し訳ありません。タイプライターで記事を書くのに集中していまして……。椛が呼びに来てくれるまで全然非常招集に気付いてなくてですね」
「新聞記事を書くのはいいが、集中し過ぎだ。馬鹿者! この事態に片が付いたら折檻だ。覚悟しておけ!」
「あややや。それは困りました。私がこの怪物を抑えましたらお許しください。大天狗様」
「お二方! くだらないやり取りをしている場合ではありません! 眼前の化物に集中して下さい!」
椛が射命丸と天魔のやり取りを諫める。
「ほう。鴉が一匹増えたか。だが、大した問題ではない」とラクタの口が開く。
「ふむ。赤い翼の天狗ですか。これは珍しい。記事のネタになりそうですね」
射命丸は自身の着る白いシャツを黒スカートに入れなおしながらつぶやく。
「文様! 集中してくださいと言ったところでしょう!?」
「おお、怖い怖い。そう睨まないでください椛。すぐにやりますから!」
そう言い残して、射命丸文は天魔、椛、ラクタの視界から一瞬で消え去る。
「な、なんだ!? どこに行った!?」と狼狽えるラクタ。
「こっちですよ」
ラクタの背後から射命丸の声がする。ラクタが振り向くとそこんは不敵な笑みを浮かべた射命丸の姿があった。
「き、貴様いつの間に……!?」
「驚きましたか? 私スピードには少々自信があるんですよ。自称ですが……幻想郷最速なので!」
射命丸は幻想郷最速宣言をすると、すかさず天魔から借りた団扇で強風を作り出す。風はかまいたちを発生し、ラクタの皮膚に無数の傷をつけた。
「ぐう!? 舐めおってぇええ!」
ラクタは射命丸に殴りかかる。しかし、そこに既に射命丸の姿はない。
「遅い遅い。そんなことでは私を捕まえることなんてできませんよ!」
射命丸はその超スピードでラクタにかまいたちによる連続攻撃を加える。上下左右あらゆる角度からの攻撃にラクタは防戦一方だ。
「くっそぉおおお!?」
ラクタは攻撃を避けようと上空へと飛びあがる。
「飛んで火にいる夏の虫とはこのことです。空は私のホームタウンですよ?」
射命丸にとって無限に広がる空は自身のスピードを生かす最高の場だ。射命丸はさらに速度を上げる。攻撃の力もまたその速度に比例して上がっていく。
「うぐぅううううううう!?」とさらにうめき声を大きくするラクタ。
「調子に乗るなよぉおおお!?」
「きゃっ!?」
ラクタが闇雲に動かしていた腕に偶然射命丸が衝突してしまう。怯んだ射命丸の隙を見逃さず、ラクタは首を締め付ける。
「やっと捕まえたぞ。ちょろちょろとうるさい蠅を。このまま殺してくれる」
ラクタが射命丸の首を折らんと力を込めている隙をもう一人の天狗は見逃さなかった。大地から跳躍した椛はラクタの背後から斬りかかる。妖怪の山最迅の白狼天狗は一瞬で何戟もの攻撃をラクタの背中に加えることに成功する。ダメージを受けたラクタの力が抜けたのを確認して射命丸は腕から離脱した。斬られたラクタはそのまま地面へと落下していった。
「すいませんね椛。助かりました」
「自分の高速に酔って油断するからです。気を付けてくださいよ。……まだ終わってないようですから」
地面に叩きつけられたラクタはゆっくりとだが、すでに起き上がろうとしていた。
「……神鳥ガルーダであるこの我をここまでコケにしてくれるとはな。絶対に許さん……!」
「あやややや。凄く怒っていますねぇ」
変わらない射命丸の軽口に椛ははぁと溜息をもらすのだった。