妖怪の山の麓……そこに流れる川の近くで魔理沙は尋ね人を探す。
「お、いたいた」
緑の帽子に青い上着、そして青いスカートを着た少女が一人。見た目の年齢は魔理沙と同じくらい……十代前半くらいだろうか。少なくとも、背丈は魔理沙とそこまで変わらない大きさだ。少女はその小さな体に似合わない大きなリュックを背負っていた。
「おい、カッパ! 久しぶりなんだぜ!」
「なんだ、盟友か。どうしたんだい? 珍しい。わざわざこんなところに来るなんて……」
「ちょっと、調べてもらいたいことがあってさ。カッパんところの研究所で調べてもらえたらって思ってんだ。良いだろ?」
「盟友の頼みだからな。聞いてあげてもいいんだけどさ。これは貰わないと……」
カッパと呼ばれた少女は親指と人差し指で円のマークを作る。駄賃をよこせということらしい。魔理沙も金を要求されることは想定していたらしく、ごそごそとエプロンのポケットから、ガラスの破片のようなものを出し、カッパに見せる。
「盟友、なんだいこれは?」
「ちょっと前に香霖堂の店主に譲ってもらった魔力を増幅させる水晶……の破片さ……! こういうの好きだろ?」
魔理沙は霖之助から半ば強引に持っていった水晶を……壊してしまった水晶の破片を駄賃代わりにカッパに渡そうとする。魔理沙はカッパが未知のマジックアイテムを研究対象として好んでいることを知っていた。未知のアイテムだけではない。現代社会……幻想郷の住人たちは「外の世界」と呼んでいるのだが……その外の世界から入って来た機械などの類もカッパは研究対象として興味を持っている。要するにカッパは知的好奇心が強いのである。その性質を熟知していた魔理沙はカッパが水晶の破片に食い付くはずだ、と思っていたのだが……。
「ふっふっふっふ……。残念だったな盟友。今、そういった類の研究材料はたんまりストックしてあるんだ。それじゃあ、駄賃にならないねぇ」
「ええ……。マジかよ。仕方ない。それじゃあ、魔理沙さんのなけなしの一円を払うんだぜ……」
魔理沙はエプロンから財布を取り出し、一円札をカッパに渡す。カッパは受け取った一円札をスカートに着いたポケットに入れると、にやりと口を歪める。
「交渉成立だ。限られた者だけが入ることを許される我らが研究所に盟友を招待しよう……!」
「……なんか、秘密結社に招待するような雰囲気出してくれてるが……、私はもう何度もお前らの研究所を訪れているからな?」
「盟友……、雰囲気が大事なんだよ。雰囲気が!」
妙なこだわりをみせるカッパとともに魔理沙は川沿いを上流に向かって歩く。しばらくすると、滝が見えてきた。魔理沙とカッパは滝の裏側に入り込む。そこには洞窟の入り口が構えられていた。二人は洞窟の中に入り込み、歩みを進める。百メートル程あるいただろうか。岩場だった足元が、整地されたアスファルトに変わる。間もなく、開けた空間が現れ、内部がはっきりと見えてきた。内部は近代的な構造となっており、ハイテク機器と思われる様々な機械が設置されていた。そこではカッパと呼ばれた少女とほぼ同じ格好をした少女たちが何やら作業に明け暮れている。
「何度も来ているとはいえ、相変わらず、凄いところだぜ。ここは……」
魔理沙はきょろきょろと辺りを見回す。
「盟友、見学は結構だが、勝手に触るんじゃないぞ。下手したら死ぬからな……」
「物騒なことを言うなよ……。それとさっきから気になってたんだが、その盟友と呼ぶのやめてくれないか? 他の人間にも同じ呼び方をしてるんだろ? 誰を呼んでるかわからなくなるじゃないか。私には魔理沙っていう可愛らしい名前が付いてるんだ。それで呼んでくれよな!」
「……だったら、そっちも私のことをカッパと呼ぶのはやめてくれないか? ここにいるのは全員カッパなんだからさ」
緑の帽子に上下とも青い服で身を包んだ少女は自らの同胞をカッパと呼んだ。そう、ここにいる少女たちは魔理沙が呼んでいた通り、カッパなのである。現代社会の日本人が普段イメージしている頭に皿を乗せた口ばしのある妖怪とは似ても似つかない姿ではあるが……。
「悪い悪い。じゃあ、今度からちゃんと『河城にとり』って呼ぶぜ。さ、いつもの部屋に案内してくれよな。河城にとり!」
「なんでフルネーム!? にとりだけでいいよ! うっとうしいなぁ……」
魔理沙とにとりは『いつもの部屋』に辿り着く。部屋には『不明物質調査室』と書かれていた。にとりは調査室の鍵を開け、蛍光灯のスイッチを押し、明かりを灯す。
「よし、入っていいぞ、盟友!」
「……お前は私の呼び方変えないのかよ……」