東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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自称する者たち

「く……、誰……だ!? 我……に……何をした……?」

 

 ラクタは身動きが取れない中、声を振り絞る。

 

「あら、すごいわねー。私の蔓に締め上げられても声を出せるなんてー」

 

 姫海棠はたては間延びするギャルのような口調でラクタの言葉に反応すると、ラクタの視界に入る場所へと移動する。

 

「う、ぐ……。き、貴様……か……? 我の動……きを止めて……いるのは……?」

「そ。どう私の念製の蔓は?」

「蔓だと……? そんなものどこにも見当たらんぞ……!」

「そうでしょうねー。私にしか見えないように作ってあるもの。あ、でも椛の千里眼には見えるらしいけどー」

 

 はたては余裕の笑みを浮かべ、ラクタに説明を続ける。

 

「見えないけど形にも気を遣ってるのよー? バラの蔓みたいにとげとげにしてあるんだー」

「やっと来たか、はたて。お前も緊急招集を無視しおって……! ひと段落着いたら文と一緒に折檻だ。覚悟しておけ!」

 

 天魔は力尽き片膝立ちした状態ではたてに苦言を呈する。

 

「仕方ないじゃん。新聞記事作成のために念写してたんだから。念写ってすっごい集中力いるんだよー?」

「文もお前も……! 新聞づくりが優秀だから普段大目に見ていてやっているが……。もう少し優先順位というものを考えんか!」

「うるさいなぁ、天魔おばさんは。そんなにカリカリしたらまた皺が増えるよ? まだ誰も死んだわけじゃないんだし、いいじゃーん」

「お、おば……!? わ、私はまだお姉さんだぞ!?」

「自分でそれ言い出したら終わりだよねー。いいじゃん、血縁的にもおばさんはおばさんなんだから」

「はたて様、失礼ですよ」

「何よ椛」

「天魔様の親族とはいえ、もう少し物言いをお考え下さい。天魔様は妖怪の山のトップなんですから、一応」

「一応!?」と驚く天魔。

「だってホントのことじゃん」

「たとえ真実であっても言っていいことと悪いことがあります」と真顔で答える椛。

「え!? おばさんに見えるって真実なの!?」

 

 驚く天魔の肩を射命丸が無言で叩く。その表情は同情と憐れみを含む微笑みだった。

 

「いや、何か言って! 無言で現実を突きつけないで!?」

「うぐぉおおおおおおおおお……!」

 

 天狗たちがくだらないコントを素でやっている中、ラクタは念の蔓を振りほどかんと力を込めていた。

 

「……無駄よ!」

 

 はたてはさらに強く念の蔓を締め上げる。

 

「ぐあああ、あああ……!?」

「こう見えて私は鴉天狗の名家の生まれなのよ。実力は天狗一番なんだから……!」

「あなたこそ自分でそれ言ったら終わりですよ。ま、実力があるのは認めますがね」

 

 はたての自慢話に苦笑いしながら射命丸が突っ込む。

 天狗最速の射命丸文、同じく最迅の犬走椛、そして最強にして最も怠惰な姫海棠はたて。若き天狗トップ3を持ってして何とか捕らえた西洋天狗。その処分を天魔が伝える。

 

「はたて、絞め殺せ」

 

 天魔は先ほどまでのコント的空気を一言で完全に凍らせた。

 

「え、マジ!?」

「大マジだ。妖怪の山の面子を潰した妖怪を生かす意味はない」

 

 戦闘の力は若い天狗に敵わなくなってしまった天魔。それでもなお、彼女が天狗の頂点に立ち続けられるのは、その政治的判断力にある。強いだけでは組織や権力は守れない。そのことを誰よりも理解しているからこそ彼女は大天狗なのだ。まだまだ小娘な射命丸、椛、はたての甘さを天魔は叩き切る。

 

「やれ、はたて。命令だ」

「わ、わかったわよ」

 

 はたては全力でラクタを締め上げる。

 

「うがぁああああああああ!?」

 

 断末魔をあげるラクタ。悲痛な叫び声に椛、射命丸はもちろん術者である姫海棠はたてさえも目を背ける。

 

「ぐ、ゆ、許さん……!」

「なに……?」

 

 唯一目を背けていなかった天魔だけがその異変に気付く。はたての見えない蔓に締め上げられているはずのラクタがはっきりと声を発したことに。

 

「よもや、極東の低俗な妖どもにこの姿を見せねばならんとは……! 本来この姿は我が主しか見てはいけぬものを……! 許さん!」

 

 瞬間、はたての蔓がはじけ飛ぶ。ラクタの放つ高エネルギーに耐えきれなかったのだ。エネルギーは炎となり、ラクタの体を包み込む。炎が晴れ、中から現れたのは異形に変わったラクタの姿だった。

 

「どうだ? これが神鳥ガルーダの真の姿だ」

 

 ラクタの顔は人間型から鷲型となり、体は羽毛に覆われる。足も鳥のそれになり、爪が鋭く尖っていた。

 

「この高貴な姿を見たからには、貴様らを生かしてはおかん。覚悟しろ?」

「自分で高貴だなんて言ったら終わりだろ……」

 

 天魔は冷や汗を額に流しながらつぶやくのだった。


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