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「よーし。テネブリス様に頼まれた仕事は終わったしー。ちょっとこの山を視察でもしようかなー」
帝釈天=インドラは大きな独り言を発しながら妖怪の山山頂付近の上空をうろついていた。ある程度散策したインドラは結論を出す。
「うーん。やっぱりー『勾玉』を投げ入れた湖の近くが一番居心地良さそうだよねー。なんせ運脈の源泉のど真ん中だしー」
インドラは妖怪の山の頂上付近にある湖のほとりに降り立つ。テネブリスから頼まれた『勾玉を龍穴に配置する』という仕事をした湖に。
「うん。やっぱ、ここだよねー。運に溢れていて気持ちいいもーん」
インドラは大きく深呼吸をすると、湖から山頂の方に視線を移すように振り返る。
「景色もいいし良い場所だよねー。そうだー! テネブリス様にお願いしてこの山もらっちゃおっとー。そんでもってここに私を崇める寺社を建てちゃえばー、いい感じになるんじゃなーい?」
インドラはにんまりと破顔して、自身の城を築く青写真を脳内に書き起こす。
「勝手なことを言ってくれますね」
「あーん?」
インドラは声のする方に振り返る。そこにはインドラよりも頭ひとつ慎重の高い少女が佇んでいた。青いラインの入った白地の上衣と青いスカートを履いた巫女は微笑でインドラと対面する。
青白の巫女はその緑の横髪に巻きつかせるように白蛇のアクセサリーを付けるととともに、頭部にはカエルのキャラクターが付属するカチューシャを付けていた。
「……あなただれですかー?」
「私は東風谷早苗。守矢神社の『風祝』です」
「かぜほうりー? 何ですか、それー」
「……巫女のようなものです」
「巫女ねー。巫女さんが何の用事かしらー? それにしてもー、ぷぷっ。なにその頭に付けたアクセサリーはー? だっさーい」
インドラは早苗のカチューシャと白蛇の髪飾りを指さし、笑い出す。
「その笑いをやめていただきましょうか。このカチューシャと髪飾りは諏訪子様と神奈子様に頂いた大事なものです。私がひとりでも寂しくないように……、『お二方がいつ、どこであっても早苗とともにいるよ』と言って、くださったものなのですから……」
「……その諏訪子とか神奈子とかいうのが、アンタの仕える神様ってわけー?」
「そうです。ついでに言わせてもらうと、貴方がつい先刻痛めつけてくれた方々です」
「あー。あのちんちくりんかと思ったら巨大な白蛇に変化したやつと青い髪のやつかー。ふーん……。あいつらの敵討ちってわけですかー?」
「そういうことです。妖怪の山の神となられたお二方に代わり、私が貴方に神罰をくだしましょう」
「あっははー。神に神罰を下すだなんてー。どんなギャグですかー?」
「ギャグでもなんでもありませんよ。貴方は今日、今からここでお二方に手を出した罰で消滅することになるでしょう」
「ほんっとーに面白い冗談ですねー、お姉さーん?」
「お姉さん? ふふふ。貴方の方こそ面白い冗談を言いますね。おばさん」
「あー、おばさんって言いましたー? 何それ、意味わからないんですけどー」
「意味わからないことはないでしょう? 私から見たら十分貴方はおばさんですよ。上手く若作りしていますね。見た目は中学生くらいにしか見えません。でも、溢れ出るオーラの年齢は隠せませんよ」
「……癇に障る奴ですねー、あなた。良いだろー。殺してやるよ、クソアマァ!」
インドラは眉間に皺を寄せて、早苗に凄むのだった。