魔理沙は調査室の中に入る……。以前使わせてもらった時と相変わらず、魔理沙にはどういう風に使うかわからない機械が所せましと並んでいた……。魔法使いである魔理沙はどちらかと言えば、科学系の知識には強い方だ……。だが、ことカッパ達が持つ機械に関しては余りに高度な技術が使われているのでなんとなく理解できる程度であった。
「さて、盟友は何を調べたいんだい?」
にとりが調査対象の物品を出すように催促する……。魔理沙は例の老婆から購入した誰でも魔法が使えるようになる水晶を取り出し、にとりに見せた。
「これかぁ……。これについては今、調査中なんだよなぁ……」
「これに見覚えがあるのか!? にとり!」
「ん? ああ。3~4日前かなあ。私よりも背が低いくらいの人間の老婆から買い取ったんだ。誰でも魔法が使えるようになる、なんて詐欺としか思えないような触れ込みで売り付けてきたんで、最初は怪しんでたんだけどさ……」
「その婆さんがどこに行ったか、知ってるか!?」
にとりは無言で首を振る。魔理沙は「そうか……」とため息をこぼす……。
「盟友はなんでこれを調べたいと思ったんだい?」
「香霖堂で一度見てもらったんだけど……、こーりんにも名称と、一部の用途がわからなかったんだ。それで気になってな。まあ、どんな術や原理で動いているのか知りたいってのもあるぜ」
「こーりん? 香霖堂の店主のことかい? 確かに妙だね。あのお兄さんの能力でも名前や用途がわからないってのは……」
「お前らはどんな水晶を婆さんから買ったんだ?」
「どんなって言っても一杯買ったからねえ」
そう言いながら、にとりはいくつも木箱を持ってくる……。
「おい、まさかこの中に入ってるの全部……」
魔理沙は木箱のふたを開いて中を覗く……。そこには一個十円する水晶が隙間なく詰まっていた……。
「お前ら一体いくつ買ったんだよ!?」
「一万円分ぐらいかなぁ……」
「い……一万円!?」
幻想郷では一円が現代日本でいう一万円程度の価値に相当する。つまり、にとりたちが払った一万円はおよそ一億円程度と言うことになる。
「お、お前らそんな金持ちだったのか!?」
「ふっふっふっふ。最近、すごいスポンサーさんが私達についてくれたんだ。おっと、どこのだれかは盟友相手であっても言えないよ。企業秘密ってやつだからね」
「こんなに買って何に使うんだよ……」
「盟友と同じさ……。この水晶の仕組みを調べるためだよ。仕組みを暴いて大量生産できるようになれば、儲けられるからね」
「……私は魔法の知識を深めたいだけで、儲けたいわけじゃ……」
魔理沙の言い分を聞き流し、にとりは話し続ける。
「個人的に購入しているカッパ達も結構いたよ。わたしたちカッパも人間程ではないとはいえ、魔法が下手だからね。魔法が使えないカッパ達は我先にと好みの魔法が出せる水晶を手に取っていたよ」
人間も妖怪もそういう部分は大差ないんだな、と魔理沙は思いながら、本題についてにとりに質問する。
「で、にとりたちはこの水晶の仕組みがわかったのか?」
「いや、まだほとんどわかってないんだ。十分の一くらいさ。さっきも言ったけど、わたしたちカッパは魔法に疎いからね。調査には時間がかかりそうなんだ。まあ、ひとつだけ確かなことはある。もっとも私達カッパにとっては残念な事実ではあるんだけど……」
「その残念な事実ってのは何なんだぜ?」
「……この水晶、魔力を増幅させているわけじゃないんだ……」
「え?」
魔理沙はキョトンとしてしまう……。魔理沙自身もこの水晶を手に取って使用していたからだ。その時の印象としては明らかに魔力は増幅されているように感じた。軽く魔力を込めただけでもそれなりに大きな炎が出せたからだ。
「わたしたちは当初、魔力の低いカッパが魔法を出せるようになってるもんだから、てっきり、この水晶は魔力を増幅させるもんだと思ってたんだ。でも、魔力の数値を計ってみたら……魔力の総量に変化はなかったんだよね」
「おいおい、じゃあ、なんで術者の実力以上に大きな魔法が発動するんだよ」
「単純なことさ。この水晶は効率化を突きつめた代物なんだ」
「効率化?」
「そ、盟友も知ってるいだろうけど、魔法を使う時、魔力の全てが魔法になるわけじゃない。どんなに熟練した魔法使いでも魔力が空気中に発散したり、魔法とは関係ない光や熱になってしまったりするからね。……この水晶は素人が使っても玄人なみの効率化を実現するアイテムってわけさ。もちろんそれができるだけでも凄いアイテムであることには変わりないんだけどさあ。私達カッパからすれば、もし、魔力が増幅されているんであれば、この水晶の仕組みを理解することで夢の永久機関が作れるんじゃないか、と思ってただけに残念だったんだ……」
「魔力の効率化……か。そんなことだけで、あんなに出力があがるのか……?」
魔理沙は手を顎に当て思索に耽る……。どうにも納得できなかった。魔理沙も魔力のロスがあることは知っている。だが、それを改善するだけで小さな子供が実用的な魔法を使えるまでになるものなのだろうか、と魔理沙は疑問に思う……。
「……また、何かわかったら教えてくれよな!」
魔理沙は水晶から眼を離さずに、にとりに話しかける。
「……私達も魔法方面からの見解を聞きたいから、情報交換してくれるなら、大歓迎だよ」
「よし、それじゃ返してくれるか?」
「え、何を?」
「一円だよ。結局私の持ってきた水晶は調べてないわけだし……」
「いやいやいや、十分情報は渡したでしょ!? 少なくとも一円分は!」
「この水晶の正体の一つが、魔力の効率化に特化したものだって情報だけだろ!」
「何、言ってんの! それ調べるだけでも大変だったんだから!」
「ケチくさい奴らだなあ……」
「どっちがだよ……」
魔理沙は一円を回収することを諦め、カッパの研究所を後にした……。