東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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一つ目の難題

 魔理沙はてゐとともに、輝夜に連れられて永遠亭内にある枯山水の美しい中庭に足を運んでいた。中庭と呼ぶにはあまりに立派なその空間で、輝夜は魔理沙に問う。

 

「霧雨魔理沙、感じ取れているかしら?」

「……ああ。凄い量の運が放出されている。この中庭にある龍穴。かなりデカいんだぜ……」

「良い場所でしょう? こんなふうに運が溢れる場所を気場というのよ。今風に言えば『パワースポット』とでも言うのかしら?」

「そんな場所でどんな修行するってんだぜ?」

「ここならば、半永久的に私の能力を発動し続けることができる……。てゐ離れていなさい」

 

 輝夜の言葉を聞いたてゐは素早く中庭から飛び退いた。その途端に、魔理沙と輝夜以外の世界が灰色に染まっていく。

 

「な、なんだ!?」と魔理沙が驚いている間に目に映る全ての物体がモノクロになってしまった。色付いているのは魔理沙と輝夜の体だけ……。

 

「お、おい。詐欺ウサギ! 大丈夫か!?」

 

 魔理沙は中庭から飛び退いたてゐに声をかける……が、すでにモノクロになってしまっている因幡てゐが返事をすることはなかった。

 

「ふふふふ。元々白黒衣装だから、あなたはあまりこの世界でも浮いてないわね」

「お前、一体何をしたんだぜ!?」

「永遠と須臾を操る程度の能力……」

「はぁ……? 永遠と、しゅゆ……?」

「須臾とは時間の最小単位のこと……。私はそんな須臾の世界に入り込むことができる。そして、今回は特別にあなたも招き入れた」

「……何言ってるか、全くわからないんだぜ?」

「深く理解する必要はない。あなたは止まった時間の中で修行できるということよ」

「止まった時間……? ウサギが動かなくなったのもそのせいか?」

「ええ。今、この須臾の中で正常に動けるのは私とあなただけ。いえ、『異常』に動けるという表現の方が良いのかしら? 止まった時間という形容はしたけれど、正確には時間経過とともにこの須臾は終わる。もっとも、飽きるほどに長い時間が経過しないと終わらないけど」

「やっぱり、お姫サマが何を言っているのかちっともわからないな。……で、どんな訓練をやるつもりなんだぜ?」

「……簡単なことよ。私の出す五つの難題に応えてもらうというだけ」

「……難題?」

「そう。かつて私に言い寄ってきた公達を追い払うために要望した五つの品。その本物を私は持っている。あなたはそれらを突破することができるかしら?」

 

 言いながら、蓬莱山輝夜はその右手に一つのお椀のようなものを召喚した。

 

「……何なんだぜ、それは?」

「『仏の御石の鉢』。穢れた地上の民でありながら、穢れを極限にまでそぎ落とした最高位の人間の内の一人が持っていたもの……。聖人は死してなお、現世にその力を残す。こんな風にね!」

 

 輝夜が持つ『御石の鉢』がまばゆい光を放つ。光はビームとなり、魔理沙に襲い掛かる。

 

「いっ!? や、やばい!?」

 

 魔理沙は咄嗟に地面に転がるように避けた。ビームはてゐが中庭から逃げ込んだ建物にぶつかる。

 

「いきなり何するんだぜ!? ウサギ大丈夫か!? ……って、え!?」

 

 明らかに高威力だったビーム攻撃。それがぶつかったはずの建物が傷一つ付けられていないことに魔理沙は驚く。

 

「心配しなくても大丈夫よ。この須臾の世界では私が認識したもの以外は傷つかないし、動かない」

「そんな都合の良いことがあるのかよ」

「あるのよ」

「こんだけ強力な能力を持ってるアンタなら、あの婆さんたちをやっつけられるんじゃねえのか?」

「それは無理よ。連中の中には、私なんて軽く超えている実力者もいる」

「……そいつは笑えない冗談なんだぜ」

「魔理沙、貴方が本気であの魔女集団に勝つつもりでいるのなら……、少なくとも私を超えていく必要があるということよ」

 

 輝夜は言いながら、再び鉢から光線を射出する。

 

「うわわ!?」

 

 輝夜が放つ無数の光線から、魔理沙は走って逃げ回る。

 

「ちっくしょう。無茶苦茶に撃ってきやがって……!」

「どうしたのかしら? 逃げ回るだけではいつまでも私に勝つことはできないわよ?」

「……ビームは私の十八番なんだぜ? 撃ち勝ってやる!」

 

 魔理沙はエプロンのポケットからミニ八卦炉を取り出すと鉢に照準を合わせる。ミニ八卦炉に段々と溜まっていく魔力。魔理沙は大声で叫んだ。

 

「マスタースパーク!!」

 

 巨大なビーム攻撃が輝夜に向けて放たれる。しかし、輝夜に焦った様子はない。

 

「なるほど。それなりに腕が立つのね。てゐが期待するのも理解できる」

 

 輝夜もまた、鉢から一際大きな光線を放つ。光線とマスタースパークは衝突し、眼も眩むような閃光を放出すると互いに互いを相殺した。

 

「へへん。どうなんだぜ? 私のマスタースパークは?」

「凄い出力だったわよ。人間としてはかなりレベルが高いんじゃないかしら?」

「そいつはどうも、なんだぜ。次はその光線に撃ち勝ってやるんだぜ!」

「もういいわ」

「え?」

「これ以上大きな光線を出したら、鉢が壊れてしまうわ。おめでとう、一つ目の難題は修了よ」

「こ、これで終わり!? 拍子抜けだなぁ……。こんなんで強くなれるのか?」

「心配しなくても、だんだんと難しくなっていくわよ。全てを修了することができれば……、貴方は私を超えられる」

「そうかい。じゃ、さっそく二つ目の難題とやらを出すんだぜ?」

「イヤよ」

「はぁ?」

「根を詰めたら疲れるじゃない。私はひと眠りするわ。あなたも休みなさい。お腹が減ってるなら、台所に甘味があるからそれでも食べるといいわ。心配しなくとも甘味も私の能力で須臾の世界に入っている。白黒にはなってないわよ」

「おいおい、何悠長なこと言ってるんだぜ!? 早く強くならないとあの婆さんたちに幻想郷が……」

「言ったでしょう? ここは須臾の世界。時間はたっぷりある。ここで人生を謳歌するほどの時間を過ごしても、元の世界では瞬きする程度の時間しか経過しない。安心して休みなさい」

 

 輝夜は言い残して姿を消す。

 

「ったく。マイペースなお姫サマなんだぜ。調子狂うなあ……」

 

 魔理沙は後頭部を掻きながら愚痴をこぼすのだった。


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