「……どうしたのよ? まったく動きにキレがないじゃない……」
「わ、悪い……」
魔理沙は帽子を深くかぶって霊夢に謝る……。日課の弾幕ごっこの練習をしていた霊夢と魔理沙だが、魔理沙の動きは素人が見てもわかるくらいに鈍い……。昨日の父親との言い争いが原因だ……。魔理沙は隠しごとをされている怒りと失望から練習に身が入らないでいる……。
「魔理沙……、アンタは良くも悪くも動きが精神状態に左右され過ぎる……。プラスに働く分には良いけど……、マイナスに働くなら、コントロールしないといけないわよ」
「……へへっ! 悪かったな。ここからは本気で行くからよ!」
魔理沙は、無理矢理笑顔を作ると、高スピードで霊夢に向かって直進する……。
「全くダメ……!」
霊夢は軽やかに魔理沙の体当たりをかわすと、箒ごと魔理沙を地面にはたき落とす……。
「単純に速いのとキレがあるってのは全く別物よ……。アンタもわかってるでしょ。今日はおしまい!」
「……まだ、私はやれる! ぜ……」
「……ダメよ。集中できてないアンタとは練習できないわ。怪我するもの……」
それ以上魔理沙は何も言えなかった……。練習に集中できていないことは魔理沙自身がよくわかっていたからだ……。
霊夢と魔理沙は母屋の縁側に座って、互いに無言のまま、庭を眺める……。いつもの光景だが……、心情はいつもと違っていた……。重い空気が張り詰める中、先に口を開いたのは、意外にも霊夢だった……。
「あー、その……ねえ!」
霊夢は顔を赤らめ、眉間にしわを寄せ、眼を瞑る……。そして頬をかきながら……魔理沙に声をかける……。魔理沙はいつもと様子の違う霊夢を見て、奇妙に思いながらも聞き直す。
「なんだよ。変な表情して、悪いもんでも食ったのか?」
「……ケンカ売ってんの? せっかく人が心配してやってるってのに……」
「心配!? 博麗霊夢さんが!?」
「……アンタ、ホントに殴るわよ……。……その……なんか悩み事があるなら……相談……しなさいよね。……アンタと私……そんなに仲が悪いわけじゃないんだから……」
霊夢の精一杯の気遣いだった。お互い、自分の気持ちを素直に話すことのない二人……。だからこそ、霊夢の精一杯の気遣いは魔理沙に響いた……。
「…………」
魔理沙は眼と口を大きく開いて驚いた様子で霊夢を見つめる……。
「な、何よ……。なんか言いなさいよ。なんで、そんな間抜け面してんのよ……」
「い、いや、まさかお前がそんなこと言うなんてさ……。ははは! そうか、そうか!」
「いたたた! なんでバンバン背中叩くのよ! それに笑ってんじゃないわよ! こっちは恥ずかしいの我慢して喋ってんのよ!」
「悪い悪い……嬉しくてさ……。気持ちはありがたく受けとっとくぜ! ホントに誰かに喋りたくなったら……真っ先にお前に相談する……」
「……さっさと悩み解決しなさいよ……。アンタが練習に集中できなかったら……迷惑なんだから……」
「ああ、わかったぜ……!」
魔理沙の心は途端に晴れ上がった……。霊夢が自分のことを心配してくれている……。たったそれだけのことが魔理沙にはとても大きかった……。