東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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境界破壊

◇◆◇

 

――永遠亭、現在――

 

 イワナガ姫は量子もつれ(エンタングルメント)を用いた量子空間移動(テレポーテーション)を発動しようと構える。鉄扇をテレポートさせ、耳を失い気絶した鈴仙の首を刎ねようとした時だった。バリバリと何かが破れるような音がしたと思った矢先、永遠亭の中から天へ向かって巨大な光の柱が放たれる。

 

「な、なに……?」と戸惑うイワナガ姫。収まりつつある光の柱から現れたシルエット。現れたのはいかにも魔法使いといった風貌の金髪の白黒少女だった。

 

「ぷはあぁあ! やっと出てこれたんだぜ? あのお姫様、無茶苦茶しやがって」

 

 魂の牢獄と須臾の世界を一気にぶち壊し、現在世界に戻ってきた霧雨魔理沙は肩で息をしながら、愚痴をこぼしていた。

 

「貴方は……、『出来損ないの魔法使い』……!?」

 

 イワナガ姫は霧雨魔理沙の顔を見ながら、突然の登場に驚きの表情を浮かべる。

 

「その出来損ないとかいう呼び方は大嫌いなんだぜ? ……アンタ、輝夜のお姫様と似たような服着てるな。永遠亭のお仲間……ってわけじゃなさそうだ」

 

 魔理沙は周囲を見渡しながら、イワナガ姫に話しかける。

 因幡てゐ、八意永琳、鈴仙……。そして、魔理沙とはまだ面識のない藤原妹紅……。庭には傷ついた永遠亭の住人たちと竹林の案内人が倒れている。この光景を見れば、永遠亭と目の前の和風ドレス女が敵対しているのは明白だ。魔理沙はイワナガ姫に問いかける。

 

「アンタ、あの婆さんの仲間か……!?」

「お母様のことを……テネブリス様のことを言っているのかしら? ええ、そのとおり。私は『ルークス』の一員。幹部である『ドーター』の一人、イワナガ。月の民からはイワナガ姫と呼ばれていますわ」

「イワナガ姫……。やっぱりあの婆さんの仲間だったか。こんなところで何してるんだぜ? 詐欺ウサギたちを痛めつけたのもお前だな!?」

「いかにも。私がこの永遠亭とかいう屋敷の者たちを痛めつけて差し上げました。もっとも、多少私怨も織り交ざってはいますが、これは目的達成のための手段に過ぎませんわ」

「目的……?」

「ええ」

 

 イワナガ姫は虹色に輝く勾玉を魔法で掌に再び召喚し、魔理沙に見せつける。

 

「それは何なんだぜ……?」

「これは伊弉諾物質(イザナギオブジェクト)。幻想郷の運を強力に奪い取るもの。これを運脈の源泉に配置するのが私の役目。このお屋敷でいうなら、貴方が今出てきた中庭に配置するのですわ」

「運を奪い取る……? あの婆さんが人里で売ってた水晶と同じようなものか……!?」

「ああ、あの玩具のことですか。確かに用途としては変わりないですが、容量には天と地ほどの差がありますわよ? 例えるなら、水たまりと大海ぐらいの差がありますわ」

「……幻想郷の運を根こそぎ盗っちまうつもりか!?」

「まあ、そういうことにもなるかもしれません」

「ふざけんじゃねぇぜ。そんなことしたら、チルノも小傘も蘇られなくなっちまう。……いや、幻想郷自体が危険になっちまうぜ……!?」

「ふふふふふ。このコミュニティ一つ潰れたとしても、真円たる完全な生命がその力を取り戻せるのなら安いものだとは思いませんこと?」

「完全な生命……? それが、お前らの目的か!?」

「……お母様の目的が我らルークスの目的だとするならば、そうでしょうね。もっとも、ルークスは基本的に幹部の我が強く、個人プレイに走りがちではあるのですが。……私はお母様と同じ目的を持っていますのよ? 月の賢者をも超える賢者になるために……、創造主に近づくために、真円を知ることは必要なことですもの」

「わけのわからんこと言いすぎなんだぜ……! お前らの好きになんてさせるもんか!」

「貴方の許可は必要ない」

 

 イワナガ姫は勾玉(イザナギオブジェクト)を永遠亭の中庭へと放り投げる。

 

「させるか!」

 

 魔理沙は星型の魔法を勾玉目掛けて発射するが……。

 

「なに!?」

 

 結界に守られた勾玉は魔理沙の魔法を弾き、中庭に着地する。勾玉は周囲に結界を自動展開すると、強力に定着した。

 

「これで私の仕事は終わり。……だったのですが、まさかこんなところにリサの娘がいるとは思いませんでしたわ。ちょうどいい。お母様への手土産に貴方の首を持ち帰ることにいたしましょう」

「誰がやられるか。逆にアンタをやっつけてやるんだぜ!」

「……そういえば、貴方は一体どこから出てきたのかしら?」

「須臾の世界とかいう結界の中からだぜ! ……出てくるのが大変だったんだぜ?」

「……須臾の世界? たしか輝夜姫が持っていた固有の能力。……輝夜姫はどこに?」

「そういえば、結界を破ってからまだ見てないんだぜ」

 

 魔理沙は周りを見やる。ほどなくしてすぐに見つけ出した。蓬莱山輝夜は結界を破られたときの衝撃で永遠亭の屋根の上に吹き飛んでしまったらしい。さすがは蓬莱人らしく、体にダメージは見受けられない。しかし、眼をぐるぐると回して気絶しているようすだ。

 

「こんな時に気絶しないで欲しいんだぜ」

「ふふふふ。自分の城が落とされようとしているのに働けないなんて、城主失格ね」

 

 輝夜の間抜けな姿を目にしたイワナガ姫はくすくすと笑っていた。

 

「さて、蓬莱山輝夜も無力化されている今、貴方を守るものは誰もいない。大人しく殺されてちょうだいな。生まれ損ないの魔法使い……!」

 

 イワナガ姫は量子空間の結界を展開した。魔理沙は目に見えない量子空間結界にぞわりとした感覚を覚える。

 

「お前、何したんだぜ? 妙な気配を感じるんだぜ……」

「へぇ。結界を感じ取ることができるとは。中々やるじゃないの、劣等魔法使い。さすがはリサの娘だけのことはある」

「結界……? この気配は結界なのか……。今までこんな感覚を覚えることはなかったんだぜ……。これがあの白髪の姉ちゃんが言ってた私の能力……?」

「ぶつぶつと何を言っているのかしら。……私に感謝することですわよ? 私の量子空間移動(テレポーテーション)は光速をも上回る。気付いた時にはあの世行きですもの。……さようなら、出来損ないさん」

 

 イワナガ姫はにやりとした表情でその手に持つ鉄扇を振るう。量子に変換された鉄扇の情報は量子もつれ(エンタングルメント)現象を利用して魔理沙の周囲を埋め尽くす量子に伝達され、鉄扇を再構築後、魔理沙の首を斬り飛ばす……はずだった。

 

「……なに……?」

 

 イワナガ姫は眼を丸くする。それもそのはず。量子空間移動で瞬間移動するはずだった鉄扇がテレポートしていなかったのだから。

 

「どうしたんだよ、もうひとりのお姫様。扇振り回して何するつもりだったんだぜ?」

 

 魔理沙から見れば、イワナガ姫が鉄扇を素振りしているだけ。その様子は理解不能なものにしか見えない。魔理沙の自然な反応はイワナガ姫からすれば煽っているようにしか感じられなかった。

 

「……劣等魔法使い! 貴方、何をした!? なぜ、私の量子空間移動が発動しない……!?」

「量子空間移動? なんだよ、それ。なに言ってるかさっぱりなんだぜ?」

「はっ」とイワナガ姫は気付く。確かに張っていたはずの自分の量子空間の結界がなくなっていることに……。

 

「私の結界が破られている……? いつの間に……!? ……ふ、ふふふ。まぁいいわ。もう一度張り直すだけよ!」

 

 イワナガ姫はもう一度、量子空間の結界を張ろうとする。しかし……。

 

「そ、そんな……。どうして……!? 結界が発動しない!?」

「アンタ、さっきから何してるんだぜ? 独りで喚いて……」

「それはこっちのセリフよ! 貴方……、いやお前、一体何をした!? なんで私の量子空間が開かない!?」

「別に私は何も……」

 

 言いかけたところで魔理沙は思う。今、このお姫様が言っている結界の不発こそ、あの白髪赤眼の美女が魔理沙に目覚めさせた能力なのではないか、と。だが、魔理沙自身には自分が何か特殊な力を発している自覚はなかった。

 

 結論を言えば、魔理沙が自分の能力にはっきりと気付けるようになるのは、まだずっと先のことになる。

 

『境界を破る程度の能力』。それこそが霧雨魔理沙に生まれながらに与えられた能力である。もちろん、そう名付けられることも、もっとずっと先の未来のことであるのだが。

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