「あーあ……。貴重な研究材料が炭になっちまったぜ……」
魔理沙は黒焦げになった水晶を見つめながらぼやく……。
「私、何もしてないわよ!?」
霊夢は少し慌てた様子で魔理沙に弁解する。清貧生活を送る博麗の巫女は何としてでも十円を弁償したくないのだろう。お金が関わる事態になると普段の冷静な様子が崩れてしまう……。霊夢の唯一の弱点だ。魔理沙は霊夢に代金を要求するつもりなどなかった。既に魔理沙の興味は別のことに移っていたからである。
「……霊夢、ホントに何もしなかったのか?」
「何もしてないわよ! 術もかけてないし、霊力も込めてないわ! ただ、触っただけ……」
「ただ、触っただけ……。それだけで水晶が反応したのか……?」
魔理沙は顎元を手で触り、何やら思索に耽っている……。水晶の正体を見抜こうとしているようだ。しばし、魔理沙は思考を続けるが答えは出なかった……。
「特定の条件を満たす者が触れたら壊れるようになってたのかしら……」
霊夢は、魔理沙が弁償については考えておらず、水晶の正体を突き止めようとしていることを察し、声をかける……。
「……なるほど、十分に考えられるんだぜ……」
霊夢の『特定の条件』という言葉に魔理沙は応答する。魔理沙が知る魔法にも同じ様なものは存在する。例えば、侵入者が領域に入った途端に攻撃魔法が発動したりする……所謂トラップと呼ばれるものだ。どうやら、この水晶にはトラップが仕掛けられていたらしい。水晶が真っ黒焦げになってしまった今、確かめる手段はないが……。
「……巫女が触ることで発動する魔法とかあったりするの……?」
「そんな、限定的な魔法聞いたこともないぜ……。ただ、トラップの類である可能性が高いぜ……」
「……どうやら、本当にきな臭いことが起こってるみたいね……。魔理沙、他に知っていることはないの?」
先ほどまで慌てていた霊夢はどこへやら……。博麗の巫女はどうやら『仕事モード』に入ったらしい……。真剣な顔つきになる……。
「……カッパからの情報なんだが……、この水晶は魔力の効率化を突きつめたものらしい。そのおかげで、魔力の扱いが下手な人間でも魔法を出せるようになるみたいだ。それ以外のことは残念ながら知らないぜ。あとは、同じ水晶をカッパが大量に持っているってことぐらいだけだ……」
「詳しく調査する必要があるようね……。さっそく、カッパのところに行くことにするわ! 水晶をこの目でもう一度よく見ないとね……!」
「……霊夢、金はあるのか? カッパの奴ら情報提供に金を要求してくると思うぜ?」
「なっ!? 水晶を見せてもらうだけでも金を取るの……? なんて奴らなのかしら……」
「……私が魔法に関する情報を提供したら、何か話してくれるかもな……。そういう約束をにとりとしたし……」
「それなら大丈夫じゃない。魔理沙、私と来てくれる? 一緒にカッパの所に行くわよ!」
「ダメだって、霊夢! あいつらと約束したのは今日なんだぜ? 一日に二回も、カッパの所に行って情報提供を求めたら、私達が水晶についてよっぽど知りたがっているとあいつらに思われちまう。そうなったら、カッパ共は私達の足元をみてくるぜ? 私の情報提供だけじゃ、水晶について教えてくれなくなっちまうかもしれない」
「……ったく……。ややっこしいわねえ……。わかったわ! まだ、実害は出てないみたいだし……。少し様子を見ることにするわ……。 で、いつカッパの所に行く?」
「ま、間は開けた方がいいな……。早くて明後日ってところだぜ……」
「わかったわ……。明後日……ね」
「そんじゃ、今日のところは帰らせてもらうぜ! ありがとな霊夢。私のこと、心配してくれてさ……。また明日な!」
魔理沙は霊夢に明日も弾幕ごっこの練習に来ることを告げると、魔法の森に……自宅に帰って行った……