「魔理沙、魔理沙、魔理沙!」
必死な様子で魔理沙のことを誰かが呼んでいる……。ドンドン、と扉を叩きながら……。
「うーん……。誰だ? 朝っぱらからうるさいんだぜ……!」
魔理沙は寝ぼけ眼をこすりながら、ベッドから起き上がる……。ここは魔法の森に構えた魔理沙の自宅……『霧雨魔法店』である。もっとも、訪れる人間も妖怪もほとんどいない。たまに訪れる者も客ではなく、魔理沙の知人ばかりだ。店として機能しているとは言い難い。だからこそ、朝早くからの来訪者は珍しいものであった。
霊夢とカッパの研究所に行く約束をしたのは明日だ。霊夢であるとは考えにくい……、他にも約束をした覚えのある奴はいない……、と魔理沙は考えながら扉の前に移動する。
「はい、はい。誰なんだぜぇ?」
魔理沙が扉を開けると両目に涙を浮かべた青髪の少女の姿があった……。
「チルノじゃないか……。どうしたんだ? いつも湖にいるお前が……珍しい。なんで泣きそうな顔してるんだぜ?」
「……お友達が……お友達が死んじゃった……」
「お友達……? お前がいつも一緒にいる妖精仲間のことか?」
チルノと呼ばれた青髪の少女は頷く……。魔理沙はチルノことを妖精と呼んだ。そう、この青髪の少女は人間ではなく、妖精なのだ……。良く見ると、氷の結晶が6本、背中から羽のように生えている。
詳しい発生メカニズムは把握されていないが、妖精は自然から生まれることが知られている。このチルノという氷の妖精は妖精の中では比較的強い存在で、氷の妖精にも関わらず夏場であっても消滅しない稀有な妖精だ。
魔理沙は夏場、チルノのそばで涼むことが多い。氷の妖精が冷たいからだ……。そのため、チルノとは顔なじみになっている。チルノがお友達と呼ぶ妖精とも、顔なじみだった。魔理沙は便宜上、チルノのお友達の妖精のことを大妖精と呼んでいる。
「死んじゃった……って、大妖精も妖精なんだから、たまには消えることだってあるだろう? そんでもって、気付いたら復活してる……。それがお前ら妖精の性質だろ? 心配しなくてもまたすぐに復活……」
「……しないよ……」
「え?」
「あたいにはなんとなく、わかるんだ……。お友達はもう生き返らない……。あたいたち、妖精の力だけじゃ、もう……。だから助けて魔理沙! お友達を助けて……」
「あたいにはわかる……ってどういうことだよ!? ……っ!?」
魔理沙は自分の目を疑う……。チルノの姿が半透明になっているのだ……。自分が寝ぼけているに違いない、と魔理沙は目をこすり、再度チルノを凝視する……。しかし、チルノは半透明になったままだ……。時間経過とともに、チルノの姿はどんどん薄くなっていく……。こんな現象を未だかつて魔理沙は見たことがない。明らかに異常だった。
「なんなんだよ、これは!? おい、チルノ、何があったんだよ!?」
「なんでこんなことになったかは……あたいにはわからない……。お願い魔理沙……お友達を助けて……」
その言葉だけを残してチルノは消滅してしまった……。