東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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噂話

◇◆◇

 

――約二十年前、世界のどこか、ルークスのアジト――

 

 ひとりの少女が自室のベッドで布団をかぶり、ブルブルと体を震わしていた。

 

「やだ……。やだやだ……! 死にたくない……。死にたくない……!」

 

 少女は目の前に迫った死の期日に恐れおののいていた。少女の名はマリー。霧雨魔理沙の母親となる少女『リサ』の双子の姉である。

 

 マリーは知っていた。ルークスのリーダーである老魔女テネブリスが自分たち姉妹を実験に使うことを……。

 

 実験の内容は姉妹の片方が持つ魔法に関わる力の全てをもう片方に根こそぎ注ぎ込むというものだ。人体実験ここに極まれりといってもいい非人道的な行いである。だが、ここルークスにおいて『お母様』であるテネブリスこそが法であり、彼女の決定は絶対なのだ。

 

 テネブリスは姉妹に告げていた。近々姉妹二人に対して実験を行うと。姉妹は内容を詳しく知らされてはいなかったのだが、事情を知る幹部が口を滑らせたのだろう。幹部以下のルークスメンバーの間では『姉妹のどちらかに能力が集約される。まだ姉妹のどちらに集約されるのかは決まっていない。お母様は決めあぐねているようだ。集約されなかった方は廃棄物として始末されるだろう』という噂が広まっていた。

 

 どちらに能力が与えられるのか……。ルークスアジト内では、その噂話で持ちきりになっており、賭けを始める者も現れる始末だった。他人の不幸は蜜の味ということだろう。

 

 だが、マリーは確信していた。お母様が姉である自分ではなく、妹のリサに力を集約させるだろう、と。

 

 マリーは大人しく内気で、不器用だった。魔法の勉強も実技も、いつもリサの後塵を拝していた。テネブリスは姉妹を『最高傑作』にすべく、教育を施していたが、リサは比較的テネブリスに褒められることが多かった。

 

 テネブリスが他人をほめることなど、ほとんどない。幹部階級のドーターでさえ、叱責されることはあっても讃えられることなどほぼ皆無。そんな中、幹部でもないリサは褒められる。期待の表れに違いない。

 

 テネブリスはマリーよりもリサを評価している。それはマリーの目にも、周囲の目にも明らかであった。

 

「死にたくない、死にたくないよ……」

 

 マリーはより深く布団にもぐる。その双眸からは恐怖の涙が流れ出していた。

 

◇◆◇

 

「あ、ドーター昇格候補筆頭のリサじゃーん! おめでとうなんですけど?」

 

 フランケンシュタイン、『メアリー・シェリー』を連れた死霊魔術師(ネクロマンサー)、『プロメテウス』がアジト内で話しかける。相手はマリーの妹、リサであった。

 

「……あんたか。天下のドーター様が私に何の用なんだぜ? 急に何言い出すんだ、ドーター候補?」

「もしかして、まだ噂を聞いてない感じ?」

「……噂?」

「まったく。当事者だっていうのに、鈍感なんですけど? いよいよこの日が来たってわけ! お母様が『最高傑作』を作る日が!」

「……最高傑作?」

「そ。アンタたちの能力を一つにすることで、最高の『人間』を作るってわけ! アタシのメアリーちゃんよりも凄い合体をお母様が見せてくれるってわけ! 楽しみなんですけど! アタシがこのルークスに入ったのはお母様の技術を盗むためなんだから! って感じ?」

「……私たちの能力をひとつにする? そんなことして何の意味があるんだぜ?」

「人間を合体させて、より優れた者を生み出す。このロマンがアンタにはわからないわけ?」

「……わかりたくもないんだぜ?」

「ふーん。意見の相違なわけ。ま、今度ゆっくりこのロマンを教えてあげるじゃん。どうせ残るのはマリーじゃなくてアンタだろうし」

「残るってのはどういうことなんだぜ?」

「能力を奪われた残りカスをお母様が始末しないはずがないわけ! 今のうちに、マリーとお別れの挨拶を済ましてた方がいいんですけど。それじゃあねー」

 

 プロメテウスは手をひらひらと振りながらリサの元を離れていった。一人残ったリサは呟く。

 

「……最近流れてるあの噂、本当なのか? ……ババアが私たち姉妹を使ってなんかしらの実験をするつもりだとは聞いていたが……もう少し先かと思ってたぜ。……だが、腑に落ちないんだぜ。あの婆さんがプロメテウスと同じような狂気的で猟奇的な趣向を理由に、私たち姉妹の能力を一つにするとは考えられねえんだぜ。……何が目的だ? 私たちがまだ知らないことを……、想像以上に碌でもねぇことをしようとしてるに違いないぜ、あのババァ。そもそもこの噂が本当かもまだ疑わしいところだが……。とりあえず、姉さんと話し合っておかねえとな」

 

 リサは自室へと向かう。非道な魔女集団ルークスだが、一癖も二癖もある魔女たちが共同生活をするには限界がある。それ故、魔女たちにはそれぞれに個室があてがわれていた。最高のパフォーマンスを部下たちに要求するテネブリスは、決して劣悪な条件で働かすようなことはしなかった。冷酷だが、合理的。それがテネブリスなのである。労働環境はホワイト。だが、テネブリスの要求に応えることができなければ、死もありうる。それが魔女集団ルークスであった。そんな環境下において、リサはマリーと相部屋をしている。望めば、個室を与えられただろうが、ふたりはそれを拒んだ。彼女たちは仲の良い姉妹だったのである。

 

 リサ達以外にも姉妹でテネブリスに攫われた者たちもいた。しかし、どの姉妹も最終的にはルークスの競争世界を前に裏切り合い、憎しみ合う者たちがほとんど、良くて互いに無関心という有様だ。そんな世界の中で生きる中、仲の良い姉妹であり続けたマリーとリサはまさに奇跡的な存在だった。

 

「おーい、姉さんただいま」

 

 帰りの挨拶を送ったリサだが、返事はない。だが、ベッドのふくらみがマリーの在室を証明していた。

 

「まーた、姉さん布団の中でまるまってるのか。おーい、でてこーい!」

 

 リサはバッと布団をはぎ取る。そこには涙を流して怯えるマリーの姿があった。

 

「なんだよ、姉さん。またメソメソしてたのか。今日はなんで泣いてるんだぜ?」

 

 マリーはうっ、うっと嗚咽を漏らして喋り出す。

 

「リサ、私きっとお母様に殺される……」

「ああ、あの噂話のことか。ま、本当の可能性もそれなりにありそうなんだぜ」

「そ、そんな……」

 

 さらに顔を青ざめるマリーを安心させるようにリサは満面の笑みを浮かべる。

 

「作戦立てなきゃな!」

 

 リサはマリーを勇気づけるように声をかけるのだった。

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