霊夢との弾幕ごっこの練習を終えた魔理沙は、いつものとおり人里に向かう……。人里は、ここ幻想郷において普通の人間が集まる数少ないコミュニティである。日本の昔ながらの木造平屋建てが立ち並ぶ。魔理沙は店に立ち寄り、日用品を買い込んでいた。
「あら、魔理沙じゃない」
金髪碧眼の美少女が魔理沙に声をかける。彼女の肩に乗った西洋人形がペコリと挨拶をするように頭を下げる。どうやら少女がピアノ線を使って操っているようだ。
「なんだ、アリスか。珍しいな、お前が魔法の森を出て人里に来るなんて……」
「この子の修理のために裁縫道具を買いに来たの」
魔理沙にアリスと呼ばれた少女は西洋人形を宙に浮かせて回転させる。物理法則を無視した動きだ。このアリスという少女はどうやらピアノ線だけでなく、魔法も使って人形を動かしているようである。
「シャンハーイ!」
突然、人形が高い声を出す。嬉しそうな、テンションが高そうな、……そんな声だ。
「相変わらず、変な言葉を話す人形だな。どうせなら、もっと面白い言葉を話させた方が良いと思うぜ?」
「私が話させてるわけじゃないわ。この子が自分の意志でしゃべってるんだから」
「人形に意思を持たせる研究……。相変わらず、意味のわからん研究をしているなあ……」
魔理沙は呆れた顔で、人形を見つめる。
「日々、魔法の威力を高めることだけ考えてるアンタには言われたくないわよ」
「弾幕はパワーだぜ? このロマンがわからないなんて、アリスは損してるぜ?」
「そんなロマンわからなくて結構よ」
今度は、アリスが呆れた顔で魔理沙を見つめる。
「……にしてもこの人形、明らかに西洋人形のくせに上海と叫ぶなんて、自己認識能力が欠如してるんじゃないか?」
「そこが良いんじゃない。自分のことを中国人かなにかと勘違いしている西洋人形……最高の研究対象でしょ?」
「ようわからん……」
「……そういえば、アンタ最近、博麗神社に入り浸っているそうじゃない?」
「ああ。弾幕ごっこの練習を、ちょっとな……」
「弾幕ごっこ、ねえ。あんなもの、本当に異変の解決方法になりうるの? 所詮は遊びじゃない。殺し合いの決闘に代わるものになるなんて……、私には到底思えないわね……」
「……絶対の力を持つ者が作る『遊び』だぜ? 私は上手くいくと思ってる。だからこそ、今、一生懸命練習してんだ。他の奴らから一歩抜きんでるためにな……!」
「『絶対の力を持つ者』か。えらくあの紅白巫女を買ってるのね」
「まあな……。まあ、霊夢だけじゃない。うさんくさいけど、紫とかいう大妖怪も絡んでるらしいし、上手くいくと私は思ってるぜ? アリスも弾幕ごっこの練習しとけよ! 時代に取り残されちまうぜ?」
「ま、記憶には留めておくわ」
魔理沙はアリスと別れると、魔法の森の入口に向かった。行きつけの店を訪れるために……。