「……これは……異変だ……。しかも、今までに私が経験した笑えるような異変じゃない……! とんでもないことが起きている……そんな感じがするぜ……」
チルノの消滅を目撃した魔理沙は一人呟く……。パジャマからいつもの白黒の魔法着に素早く着替えると、箒に跨り、博麗神社に向かう……。もちろん、この異常を霊夢に伝えるためだ……。
「な、なんだ!? ……ちくしょう! こんなときに故障かよ!?」
箒の調子が悪いのか……、いつもより速く飛ぶことができない……。安定せず、ふらふらした飛行になってしまったが、どうにか魔理沙は博麗神社に辿り着く……。
「おい、霊夢、霊夢、霊夢うう!」
魔理沙は神社の母屋の雨戸を叩きながら霊夢を呼ぶ。しばらくすると、不機嫌そうに霊夢が出てきた。魔理沙と同じく寝ていたようだ。
「なんなのよ。朝っぱらから! ぶっとばされたいの!?」
「巫女としてその言葉遣いはどうかと思うんだぜ……。ってそんなことはどうでもいいんだ! 霊夢、大変なことが起きてるっぽいんだぜ!?」
「ええ、起きてるわね。私が起きているという大変なことが……」
「おい、いい加減、機嫌直すんだぜ! こっちは慌てて報告しに来てやったってのに……」
「わかったわよ! 着替えて来るから落ち着きなさい……」
霊夢は寝間着から、見慣れた紅白の巫女衣装に着替えてきた……。起きて少し時間が経過したからか、機嫌も幾分か良くなっているようだ。霊夢が冷静になっていることを確認して魔理沙は事の顛末を話し始める。
「今朝、急に私の家にチルノが来たんだ」
「チルノ? ああ、氷の妖精のことね……」
「チルノの奴、奇妙なことを言っててさ……。妖精仲間が死んじゃったって言ってたんだ……」
「妖精なんてよく死んでるじゃない……。そして、気付いたら復活してる。そんな奴らでしょ」
「私も同じことをチルノに言ったんだよ! でも、あいつこう言い返してきたんだ。『あたいにはわかる。もう生き返ることはない』って。その話をしているときにあいつ自身も半透明になって、どんどん薄くなって、ついには消えちまったんだ……」
霊夢は魔理沙の目を凝視する。いたずら好きの魔理沙が嘘を言っていないか確かめるためだ……。今日の魔理沙の興奮具合からして、真実を言っていると判断した霊夢は手を顎に当て、思考する……。
「……確かに妙ね……。あの氷の妖精は比較的強力な力を持っていた……。そんな奴が何もされてないのに消えるなんて……。……っ!?」
霊夢は突然立ち上がり、遠くを見つめる……。人里がある方向だ。
「ど、どうしたんだぜ!? 霊夢!」
「人里で何かが起きている気がする……」
魔理沙は霊夢の言葉を聞いて、顔を曇らせる……。霊夢の勘は良く当たるのだ……。これまでの異変でも霊夢は勘を働かせて解決してきた。その的中率はほぼ百%……まさに神がかっている。そんな霊夢が人里で何か起きているというのだ。人里に肉親がいる魔理沙にすれば気分の良いものではない……。
「よし、早速人里に向かうんだぜ!」
霊夢と魔理沙は空を飛ぶ……。しかし、魔理沙のほうきは相変わらず調子が悪いようでふらふらとした飛行をしてしまう……。
「ちょっと、何ちんたらしてるのよ、魔理沙! しゃきっと飛びなさいよ!」
「どうも、ほうきの調子が悪いんだぜ……。先に行っててくれるか?」
「ったく、間が悪い奴ねぇ、アンタ。しょうがない!」
霊夢は魔理沙の箒の柄を持つと、引っ張り始めた。
「へへっ! サンキュー!」
「貸しだからね。今度、お団子奢りなさいよ」
霊夢と魔理沙は人里に急ぐ……。二人とも、なんとも言えない胸騒ぎを覚える。これまでの異変とは違う邪悪な何かを二人は無意識に感じ取っていた……。