「くっ……!?」
鋭い痛みの信号が魔理沙の脳髄に届く。右肩の傷は深くはないが、出血をしてしまっていた。魔理沙はテネブリスを蹴り飛ばす。
「老人を足蹴にするとは……行儀の悪い小娘め」
テネブリスの戯言を無視し、魔理沙は右腕の状態を確認する。肘を曲げ伸ばし、掌を開閉した。運動機能は奪われていないようだが、万全とは言い難い。肩の傷の痛みが魔理沙にそう訴えかけていた。
「さて、深手を負わすことは出来なんだが……、その負傷でどこまで持つかのう?」
テネブリスは攻撃を再開する。先ほどまで以上に魔理沙は防戦一方となってしまった。テネブリスが繰り出す無数の斬撃に耐えるので精いっぱいになってしまう。
「明らかに動きが悪くなっておるのう。隙が大きくなっておるぞ?」
肩の痛みに顔をしかめた魔理沙。一瞬緩慢になった防御体勢をテネブリスは見逃さない。
「がっ……!?」
再び右肩を突かれた魔理沙は痛みに耐えきれず声を漏らす。傷口を抉り深める攻撃は魔理沙の闘争心を鈍らせた。
《ダメだ! これ以上接近戦は続けられないんだぜ。だが、この婆さんのスピード……。何もせずに距離を取るのは不可能なんだぜ。なら……》
「スターダストレヴァリエ!」
魔理沙の手から放たれた星型の魔法弾がテネブリスに向かって飛んでいく。
「……星屑(スターダスト)か。その名の通りクズのような攻撃じゃのう。低級モンスターならいざ知らず、そんな魔法がワシに効くと思うか!?」
「効くなんて思ってねえよ!」
魔理沙は星型魔法弾の軌道を変化させ、激しく地面へとぶつけた。地面から舞い上がった砂が煙幕となり、テネブリスの視界を遮る。
「距離を取るための目隠しか……! 小賢しい真似をしおって!」
テネブリスの追撃を逃れた魔理沙はミニ八卦炉をその手に構える。
《最高出力で撃ってやる! これでダメなら……。いや、そんなことは考えるな! この一撃に集中しろ、霧雨魔理沙!》
魔理沙は自分で自分に言い聞かせ、自身を鼓舞する。砂煙の煙幕が晴れようとしていた。小さな影のシルエットが浮かび上がってきた。照準を合わせ、自身の得意技であり、最高火力の術の名を魔理沙は叫ぶ。
「マスタースパァアアアアアク!」
山をも削る魔理沙のマスタースパークが腰の曲がった老魔女テネブリスに向けて放たれた。
「何度も猿真似のように同じ技を……。ワシの防御魔法にそんなものが通じると思うか!」
テネブリスは前回マスタースパークを受けた時と同様に、自身の身体を球状のバリアで包み込み防御する。
「今度こそその防御を突破してやるんだぜ。うわああああああああああ!!」
さらに魔力が込められたマスタースパークはその威力を増大させる。運を得て、魔力コントロールが上昇した霧雨魔理沙の乾坤一擲の一撃。それはテネブリスを飲み込み、強烈な熱を産んでいた。マスタースパークによって発生した煙が周辺に漂う。
「……やっぱ終わってくれないか……。ちくしょう。こっちは全の力だったのによ」
煙が晴れ、抉れた地面に刻まれたマスタースパークの通過痕。そこには何事もなかったかのようにバリアに守られたテネブリスがふよふよと浮いていた。
「くっそ。さっきはヒビ入ってたじゃねえかよ。今度は無傷かよ」
「貴様の光線なぞ少し気合を入れればこんなもんじゃ。少々運を得て浮かれておったか。お前よりも境界の力の扱いに優れていたマリーでさえ、ワシの足元にも及んでいなかったのじゃぞ? 貴様ごときが敵うと思ったか?」
テネブリスはにやりと口角を歪めるのだった。