霊夢と魔理沙の二人は早朝の人里に降り立つ……。外に出ている人の数は少ないが、飲食店を営んでいるもの達の仕込みの音が聞こえる……。
「今のところは、異常なさそうなんだぜ……」
魔理沙は普段と変わりがなさそうな人里の様子を見て安堵する。しかし、霊夢はそうでなかった。魔理沙は霊夢が深刻な表情をしているのに気付き、声をかける。
「おい霊夢、どうしたんだぜ? そんな顔して……」
「……付喪神の声が全く聞こえない……」
「え……?」
付喪神とは、長い年月を経た道具などに神や精霊などが宿ったものである……。幻想郷の道具に付喪神が宿ることは珍しくない。むしろ、常人には見えないだけで、多くの道具に付喪神が憑いている。そんな付喪神の声を霊夢は聞くことができる。魔理沙も霊夢ほどではないが、耳を澄ませば聞きとることができる……。魔理沙は耳を澄ませてみた……が、霊夢の言うとおり、全く付喪神の声が聞こえない。
「た、確かに……全く付喪神の声が聞こえないぜ……。っておい! 霊夢、どこに行くんだぜ!?」
霊夢は突然走りだし、慌てた様子で路地裏に入り込む……。魔理沙も霊夢の後を追いかけた……。そこには、チルノと同じように半透明になったオッドアイの少女が苦しそうに喘いでいた……。傘を杖代わりにしてなんとか立っている。
「こ、小傘!?」
魔理沙は少女のことを小傘と呼ぶ……。どうやら、霊夢や魔理沙と顔なじみであるようだ。彼女の名は多々良小傘。から傘のお化けである……。彼女もまた、付喪神だ……。低級な付喪神は精々、言葉を発したり、足が生えて動き出したり、といったことしかできない。しかし、彼女は人間に近い姿をしていて知性も高い。付喪神の中では上位の部類に入ると言って良いだろう。そんな彼女が苦しそうに、そして半透明になっていることに霊夢と魔理沙は驚きを隠せなかった……。
「お、おい、小傘! 大丈夫……ではないな……。一体何があったんだぜ!?」
「……急に力が入らなくなって……」
魔理沙の問いに小傘は息切れをしながら答える。
「しっかりしなさい! 他の付喪神はどこに行ったのよ?」
「み、みんな消えたわ……。良くわからないけど……きっとみんな、原因は同じ……だと思う……」
今度は霊夢が問いかける。小傘は苦しみながら答えてくれたが、どんどん薄くなっていく……。
「ど、どうしたら良いんだぜ?」
「消えかけているのは、力が弱くなっているからだわ……。……私の霊力を小傘に流し込む!」
霊夢はお札を取り出し、小傘に張り付ける……。お札を経由して霊力を小傘に渡しているようだ……。しかし、小傘の姿は一向に良くならず、薄くなり続ける……。
「な、なんで……? 十分に霊力は注ぎ込まれているはずなのに……」
「……霊夢……、きっとこれは霊力や魔力が弱ってることが原因じゃないんだと思う……」
「だったら、何が原因……。……小傘? 小傘!」
「……き、消えちまった……」
霊夢と魔理沙は小傘の消滅を眼前にして、茫然とその場に立ち尽くしていた……。