――人里――
リリス・テネブリスは自分の手足を舐めるように見て笑みをこぼす。そして独り言を呟いた。
「久方ぶりの若き体、我ながら美しいのう……」
「とんでもないナルシスト野郎なんだぜ」
悪態を吐く魔理沙だが、確かに美しかった。悪魔的な妖艶さも感じられるリリスの容姿。それは、かつて八雲紫と初めて対面した時の衝撃を上回るものだった。
「早速、目的を果たしても良いのじゃが……。最後に快感を得ることくらい許してくれるじゃろう」
リリスは手刀を作ると、腕を上げ攻撃態勢に入る。
「耐えられるか、霧雨魔理沙?」
振り下ろされた手刀の軌跡をなぞるように巨大な次元の刃が出現する。刃は空間ごと空や地を両断しながら魔理沙へと向かってきた。
「ぶっ壊してやる!」
魔理沙は次元の刃に手を翳し、受け止める。今までにない重い感触が手にのしかかった。
「くっ!? 今までの刃とは段違いに強い!? 負けるかぁああああああああ!?」
魔理沙は掌に魔力を注ぎ込む。魔理沙の魔力が次元の刃に勝り、刃はバリンと割れる。しかし、割れた衝撃で魔理沙は吹き飛ばされ、地面に擦り付けられた。
「ほう。これくらいならば耐えれるか……」
「うあ……」
地面から起き上がる魔理沙。魔力を集めすぎた掌は火傷を負ってしまっていた。
「ククク。本来の力を取り戻したワシの斬撃はどうじゃ?」
「へへ……。随分と得意げだが大したことないんだぜ……?」
「強がりを言うのう……」
言いながらリリスは手刀を天に掲げる。
「今の一撃は言うならば、『慣らし』。次は『遊び』程度には撃ち放ってやろう」
再び振り下ろされた次元の刃。
「くそ!? あんなの何度も受けてられないんだぜ!?」
刃を避ける魔理沙。しかし、刃の通過とともに生じた激しい風と舞い上がった砂利が魔理沙に吹きかかる。
「逃げても良いが、果たしていつまで保つかのう?」
強風でバランスを崩された魔理沙に向かってリリスは刃を繰り出し続ける。魔理沙も寸前のところで刃を躱す。繰り返される攻撃と回避。……先に追い詰められるのが回避側なのは必然であった。避けきれない速度で向かってくる刃、魔理沙は受け止めざるを得なかった。
「くそっ!?」
刃を手で受け止める魔理沙。焼けたように痛む掌に魔力を込める。
「うう!? 威力が桁違いに上がってる!? さっきまでは本当に『慣らし』だったってのか!? ……ダメだ……割れない。斬られる……」
魔理沙の掌にうっすらと切り傷が付き始めた。このままいけば魔理沙の体が真っ二つになる。脳裏に死が過ぎったその時、魔理沙の背後にスキマが開く。
「予想通り……、ただでさえ化物だったヤツがさらに化物になったみたいね」
魔理沙の後頭部に聞いたことのある声が届く。声の主、八雲紫は刃に手を翳す。八雲紫は自身の境界を操る程度の能力でもって、リリスの刃の境界を閉じる。
「ほう。ワシの刃を無効化したか。……どうやら『覚悟』が変わったようじゃな。境界の妖怪(モンスター)よ……」
八雲紫を視界に入れたリリスがにやりと笑う。
「紫、お前足治ったのか!?」
「ええ、ちょっとヤなヤツに貸しは作ったけどね」
魔理沙の問いかけに応える紫。
「……アレがこの世界の伊弉冉因子の始祖の本領か……。……魔理沙、手伝ってもらうわよ? 幻想郷を守ってもらうわ。それは貴方に受け継がれた伊弉冉因子の意志でもあるはずだから……」
紫は鋭い視線を魔理沙に向ける。それは博麗霊夢に向けていたそれと同じであった。
「イザナミ? さっきからリリスだのイザナミだのわけわからない言葉並べやがって……。幻想郷を守る? 言われるまでもないんだぜ」
魔理沙はボロボロの手で帽子のつばを持ち、気合を入れ直すようにかぶりなおすのだった。