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霊夢が幻想郷に来てから1年が経った。ようやく自分の力でまともに歩けるようになった霊夢に、先代巫女は服を作ってあげることにした。
「おお、我ながら可愛い巫女服ができたなー。頭のリボンが特に自信作だ。どうだ嬉しいだろ?」
先代巫女は霊夢に同意を促す。しかし、肝心の霊夢は全然嬉しそうな顔をしていなかった。どこか不満そうな表情で頬を膨らませる。
「はぁああ」と溜息を吐きながら先代巫女は、
「ちっとは嬉しそうな顔をしろよなぁ? せっかくのお人形さんみたいにかわいい顔が台無しだぞ? ほーら笑ってみろ。こうやるんだ、にぃ~」
先代巫女はほっぺに人差し指をあてて笑顔を手本を霊夢に見せるが、やはり霊夢はクールな表情のまま笑わない。
「ったく。三つになるかならないかくらいのくせにお高くとまったような表情をしやがって。よし、それじゃあ始めるぞ! 修行だ! 私にもお前にも時間がない! ガキだからって遠慮はしないぞ。ビシバシやってくからな! 覚悟しとけ!」
そう言うと先代巫女は帯と袴の隙間から御札を取り出す。
「いいか? まずは御札を高速で飛ばす修行だ。基本の術を詰め込むことで御札を飛ばすことが出来る。逆に言えば、これができれば基本は習得したようなもんだ。まず、自分の霊力を無機物に込める。ここでいう無機物ってのは御札のことだ。次に込めた霊力で御札の強度を強化する。そして、込めた霊力を爆発させて御札に推進力を与えて攻撃に昇華する。これらの基本ができることで御札を飛ばすことができるんだ。お手本を見せてやる!」
すると、先代巫女はお札を光らせ、山から境内に持ってきた岩に向けて射出する。そして見事に命中すると岩を粉々に破壊させたのだ。
「いいか? これぐらいできるようになれば合格だ。それじゃまずは御札に霊力を込めてみろ! 難しいがな。世界と自分の力の流れを感じろ。そして御札を光らせるんだ!」
指示しながら、先代巫女は御札を霊夢に渡す。すると、霊夢はいきなり御札を飛ばそうとし始めた。先代巫女は『ヤレヤレ』とポーズを取りながら、
「そんないきなり飛ばせるかよ。才能ある私の前の巫女、『先代巫女』でさえ、これが出来るようになったのは五つの頃だと聞いている。いいか? 地道な基礎訓練もせずに、いきなり応用しようと思ったって上手くは……」
先代巫女が説教する中、霊夢の御札が妖しく光り始める。そして投げた御札は幼児が放ったとは思えないスピードで岩を直撃し粉砕した。先代巫女がお手本で見せた岩の粉砕よりも、もっと粉々に粉砕したのである。
「ええ……」とひきながら驚愕する先代巫女に対して、霊夢は得意気な笑みを向けていた。
「おいおい。能力高そうなのはわかっちゃいたが……。ここまでとはねぇ……。こりゃ難儀なことになりそうだ。てか普段は笑わねえくせにこういうときだけ嫌な笑顔見せやがって。どうやら実力的なことよりも精神面を育てる必要がありそうだ。まいったまいった」
霊夢の術者としての才能はピカイチだった。先代巫女が術を教えるとまるでスポンジのように習得していく。手のかからない弟子だった。
修行をし始めて1年。久しぶりに八雲紫が博麗神社を訪れていた。
「修行の成果はどうかしら?」
「とんでもない虎の子だったな。術の精度・威力はあと2、3年もしたら私じゃ敵わないくらいになりそうだ」
問いかける紫に先代巫女が答える。
「そう。……さすがは宇佐見の正統血統。落ちぶれたとはいえ、血は受け継がれているのね……」
「だが、ひとつ気がかりがあってな」
「なにかしら?」
「ちょいとばかし性格が後ろ向きだな。この前、人里の霧雨とかいう親子が一生餅を頼みに博麗神社(ここ)まで来てくれてね。その時に歳がひとつくらいの、よちよち歩きの娘さんを夫婦が連れて来たんだ。だがなぁ。霊夢のやつ、両親のいるその娘に嫉妬したのか、突き飛ばすようなことをしやがってな。八つ当たりってやつだ。……ウチのチビは精神面の成長を慎重に見てやらないといけないかもな」
「そう……。……お調子者のくせに落ち込むときはとことん落ち込む。だれかさんみたいね」
「だれかさんってだれのことだい?」
「秘密」
紫はそう言い残すと、スキマの能力でどこかに去っていったのだった。