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「あーっ!! 私の肉まで食いやがったなこいつ!?」
先代巫女の驚き混じりの怒声が境内に響く。
晴天の午後、普段よりも豪華な昼食を頬張る先代巫女と博麗霊夢。霊夢が修行を始めて数年が経過し、霊夢は10歳になろうとしていた。
「私は育ち盛りなの! だから肉くらい寄こしなさいよ」
「うるさい! お前が育ちざかりだったら私は働き盛りだ!」
弟子とは思えない口の利き方の霊夢と、師匠とは思えない威厳のない反論を見せる先代巫女。ある意味お似合いの師弟は人里で安売りされていたジビエ肉を奪い合っていた。普段なかなか食べられないごちそうを前に、二人は自分たちが巫女であることを完全に忘れて食い意地を張っていた。
小競り合いをする二人の傍で、空間にスキマが開く。中からでてきた八雲紫は一瞬で状況を理解し、ため息を吐いた。
「まったく……。何をやっているのよバカ母娘(おやこ)」
「母娘(おやこ)じゃないわ!!」
声を合わせて否定する先代巫女と霊夢。そして再びため息を吐く紫。
「あのね。質素倹約に務めなければならない博麗の巫女が、肉を巡って喧嘩するなんていう俗にまみれたことをするんじゃないの! 没収!」
紫の没収の合図とともに肉が入った皿の下にスキマが現れ、肉皿は重力のままにスキマの中へと消えて行ってしまった。
「ああ!? 私の肉が!!」
またも声を合わせて叫ぶ先代巫女と霊夢。
「返せ!!」
「返して欲しかったら仕事をしなさい」
「仕事?」
「人里近くの小山に化け狐が現れたわ。人に化けてイタズラしてるみたい。美女に化けて誘惑して、金を奪っているそうよ」
「あーん? 化け狐が金奪ったって役に立たないだろうに。完全な愉快犯だな」と腕組みする先代巫女。
「最近人里で妖怪退治してないでしょ? 博麗神社の存在感を示すためにもさっさと退治してきなさい」
八雲紫は人里の方を指さし、さっさと対応するように促す。
「なるほど。よし霊夢。大したことなさそうな案件だ。さっさと片付けてこい!!」
「はぁ?」
先代巫女からの指示に霊夢が不満を表す。
「これも修行だ。さっさと行ってこい! あ、ついでに夕飯の買い出しもたのむぞ」
「ちっ……。さっき働き盛りとか言ってたじゃない。働けっての」
ぶつくさ文句を垂れながらも霊夢は人里の方へと飛んでいったのだった。
「あら? 思ったより素直に退治に入ったわね。あの子」
「なんのかんの言いながら、あいつ妖怪退治が好きなんだよ。天職ってやつだな」
紫の疑問に先代巫女が答える。
「……どうやら間に合ったようね」
「ああ、十分すぎる程に間に合ってる。もう代替わりしてもいいくらいだ……」
「おばあちゃんみたいなこと言うのね……」
「誰が老い先短いって? 悪いが私は長生きさせてもらう。短い人生なら短い人生なりに長生きさせてもらう!」
先代巫女は人里に飛んでいく霊夢を見ながらニッと微笑むのだった。
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……
霊夢は持ち前の勘ですぐに化け狐の女を見つけていた。
「さて、さっさと退治されなさい化け狐!」
「くっ……! 博麗神社の巫女見習いか。細心の注意を払っていたのになぜ気付いた!?」
「スキマ妖怪のヤツが気付いて教えてくれたのよ」
「八雲紫か……? 愚かな。妖怪の賢者ともあろう者が気付いていないのか。平和な世に身を置き過ぎて白痴になったか!」
「何言ってるか分からないけどさっさと倒させてもらうわよ? お使いも頼まれてイライラしてるからね! ……封魔陣!」
霊夢は狐女に向けて術を発動した。化け狐の妖力だけが封じられ、ただの狐へと変化していく。ただの狐へと変化する直前、彼女は捨て台詞を吐いた。
「せっかく私が人間を守っていたのに……。無能な賢者と使えない巫女どもめ! 今に後悔するぞ!」
「なんですって?」
妖力を失った狐は霊夢の返しに答えることはできなくないくらいにただの狐になっていた。狐は茂みの中へと逃げて行ったのだった。