「どういうこと……? こんなこと、今まで一度も見たことない……」
霊夢は先ほどまで小傘が存在していた場所を凝視したままだ。表情からは混乱や焦りが伺える。突然の付喪神の消失……。異変解決のスペシャリストである『博麗の巫女』でさえもその原因を見極めることができないでいた……。
「……魔理沙……。悠長なことを言ってる場合じゃなくなったわ……。カッパのところに行くわよ……! 今すぐに!」
「……それは博麗の巫女の『勘』か?」
「………………ええ」
「そうか……。わかったぜ……! 霊夢はカッパの研究所に行ったことないんだったな。案内するぜ!」
霊夢たちはカッパの研究所に向かう……。霊夢は直感で、この異変の原因は、怪しい老婆が売っていたという『誰でも魔法が使えるようになる水晶』に違いないと確信したのだ。
相変わらず、ほうきの調子が悪い魔理沙を霊夢は引っ張り、妖怪の山にある滝の裏の洞窟に急いだ。
「こんな洞窟の中に研究所をつくっちゃうなんて……。カッパも大したもんね……」
霊夢は初めて訪れたカッパの研究所の大きさとハイテクさに舌を巻く……。まだ早朝だからか、作業員のカッパの姿も疎らだった。魔理沙はすぐに見慣れた一人のカッパを見つけた。
「お、にとり! ちょっと話があるんだぜ?」
「なんだい? 盟友……。二日続けてくるなんて珍しいじゃないか……。しかも、こんな朝早くに……。それに博麗の巫女までくっ付いてくるなんて……」
「ちょっと、急ぎの用事なんだぜ! この前の水晶見せてくれないか? 緊急事態なんだぜ」
「すぐに見せなさいよ! もちろんタダで! 金を要求したりなんかしたら……どうなるかわかってるでしょう……?」
霊夢は、見下した表情でにとりを恫喝する……。にとりからしたら悪魔以外の何者でもない……。にとりは慌てながら答えた……。
「わかったよ! だから、その今にも術を放ちそうなオーラはしまって!」
霊夢はにとりから了承の返事をもらうと、『ありがとう』と造り笑顔を返した……。魔理沙は「この巫女、輩者にすぎるだろ……」と思うが口には出さなかった。
「もう。なんなんだよ今日は……。八雲の妖怪に続いて博麗の巫女まであの水晶を見たがるなんて……。しかも両者ともタダで……。こっちは堪ったもんじゃない……」
「……紫がここに来たの!?」
「来たって言うか……、まだウチにいるよ。いつも盟友が使っている調査室で例の水晶を観察してる」
「紫が自ら動いている……!? あいつが犯人……? ……それとも……」
霊夢は独り言が終わると、にとりの胸倉を掴んで怒鳴る……。
「にとり! 早くその部屋に案内しなさい!」
「お、おい。落ちつけよ霊夢! らしくないぞ……!」
にとりに噛みつく霊夢を魔理沙は諌める。こんなに焦ってイライラしている霊夢を魔理沙は初めて見た。霊夢は、勘でこの異変がとんでもなく危険なものであると判断しているに違いない、と魔理沙は思考する……。にとりは雑な扱いに文句を垂れつつ、霊夢と魔理沙を『不明物質調査室』に案内する。
「あら、霊夢。遅かったのね……」
にとりが扉を開けた先に……室内に、金髪をたなびかせた美女が立っていた……。その美女……八雲紫はいつものように胡散臭い笑みを浮かべている。だが、どこかしら、いつもの余裕が感じられないと、魔理沙は違和感を覚えた。