「お、おい霊夢……。いきなり何を言い出すんだぜ? 関わらない方が良いなんて……」
魔理沙は霊夢に突然、異変解決に関わらないよう進言された。魔理沙は当然納得ができず、問いかける。
「……この異変はアンタには荷が重いってことよ……。家に帰って大人しくしててちょうだい……」
霊夢は魔理沙から目を逸らし、俯き加減で答える……。
「……私だって……、ここ最近で強くなったんだぜ? それはいつも一緒に手合わせしているお前が一番わかってくれてるはずだろ?」
「……ええ。魔理沙は強くなったわ……。その辺の妖怪なら、何の問題もなく倒せるようになったと思うわ……。状況さえ整えば、大妖怪と呼ばれるような連中とも渡り合えるくらいには強く……」
魔理沙は霊夢が素直に強くなったと言ってくれたことに嬉しい感情を覚えつつも、普段なら、そんな優しい言葉をかけない霊夢が今に限って話すことに違和感を覚える……。いつもと違う霊夢の様子に魔理沙は苛立ちを隠せない……。
「そこまで認めてくれてるなら……、なんでこの異変を一緒に解決させてくれないんだよ!」
「それは……」
霊夢が言い淀む……。やはり霊夢の様子がおかしいと魔理沙は訝しむ。魔理沙が知る霊夢なら、歯に衣着せぬ物言いで理由をはっきり述べるはずだ……。霊夢が魔理沙に何か隠しごとをしているのは明らかだった……。
「お前らしくないぜ、霊夢……! ……悪いが、私は異変解決から手を引くつもりはないぜ? お前が水晶の正体を教えてくれないってんなら……私に力を貸す気がないってんなら、単独でやらせてもらうぜ……!」
魔理沙は不明物質調査室を飛びだし、研究所の外に向かって走り出す……。
「魔理沙、待って!」
魔理沙は霊夢の制止の言葉を振りきって外に出ると、箒にまたがり、空に飛び上がる。ほうきの調子は悪いままのようで、上下左右にふらふらした飛行で魔法の森の方面に飛んでいく……。霊夢は哀しそうな表情でそれを見つめる……。二人のやり取りを観察していた八雲紫が霊夢に話しかける。
「……いずれ、この日が来るのはあなたもわかっていたことでしょう? 真実を隠して魔理沙と接していたからよ……。あなたなりの優しさだったんでしょうけど……。彼女の心の傷をより深くするだけになりそうね……。……魔理沙はあなたの理解者にはなりえないのよ……。霊夢……」
八雲紫は憐れむような表情で霊夢を見つめる……。霊夢は紫の言葉に反応することなく、俯き、地面に視線を向け続ける……。
「……私は、侵入者の足取りを追うわ……。霊夢、あなたはあなたの仕事をしなさい……」
「私の仕事……?」
霊夢は紫の方を向き、聞きなおした……。霊夢は侵入者の検索、討伐をするよう紫に言われるものだと思っていた。つまりは紫と同行するつもりだったのだが、紫の言葉は霊夢に別行動を促すものだった。
「……あなたらしくないわね……。判断能力が鈍ってるわよ……。……それだけ、あなたにとって魔理沙は特別な存在になってしまっていたのね……。もっと早く引き離すべきだったわ……。……魔理沙、あのままだと落ちてしまうわよ。早く行ってあげなさい」
霊夢は紫の言葉を受け、はっと気づく……。霊夢もカッパの研究所を飛び立つ。霊夢の表情はどこか焦っているように感じられた。
「……まだまだ、手のかかる子ね……。……私も行かなくちゃね……」
紫は自身の能力で空間に穴を空ける。『スキマ』と呼ばれる空間の裂け目である……。スキマの中からは多数の目が内側から外を覗いている……。傍から見れば不気味な空間の裂け目に紫は自身の肉体を放り込む……。このスキマ……所謂ワープができる代物で、紫はどこかしらに移動するつもりのようだ。紫の体が全てスキマに入り込むと、空間の裂け目は閉じ、元に戻る……。
「……三人とも、挨拶なしで帰っちゃったよ……。……まったく、礼儀ってやつがあると思うんだけどなあ……」
ひとり取り残された河城にとりは、ぽつりと苦言を呟くのであった。