東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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ねずみ

「くそ、くそ、くそ! 気に入らないぜ……!」

 

 霧雨魔理沙はカッパの研究所を飛びだすと、小さな声でぼやきながら、魔法の森に……自宅に向かって飛んでいた……。突然、霊夢から異変に関わらないように忠告を受けたが、魔理沙は聞き入れるつもりなど毛頭ない。単独で異変解決をすることに決めた魔理沙だが、どうにもほうきの調子が悪い……。まずは自宅である霧雨魔法店に戻り、ほうきのメンテナンスをすることが先決だと魔理沙は考えたのだ。

 

「おわっと!?」

 

 乗っていたほうきが止まりかけ、思わず魔理沙は声を出してしまう……。身の危険を感じた魔理沙は万が一落ちても大丈夫なように高度を下げながら飛行を続ける……。しかし、箒の揺れは次第に大きくなり、今にも飛行が出来なくなりそうだ。魔理沙は空を飛んでの移動を諦め、魔法の森に不時着する……。

 

「こっからは歩きか……。面倒くさいぜ……」

 

 魔法の森の奥深くに降り立ってしまった魔理沙はため息をつく。常人なら、迷いに迷った挙句、力尽きて死んでしまうような場所にいるが、キノコ取りのために魔法の森を歩き慣れている魔理沙は慌てることなく、自分がいる位置がどこか山等を見て確認し、自宅がある方角に向かって歩き出した。

 しばらく歩いていると……、魔理沙は奇妙な音が聞こえることに気付いた……。魔法の森の奥深く……、普段なら聞くはずのない音……話声が聞えたのである……。不思議に思った魔理沙は様子を窺うため、物音を立てないよう静かに近づく……。大樹の影に隠れ、覗き見ると……、そこには黒づくめの女たちが……西洋の魔女のような服装を着た者たちが複数人でたむろしていた。魔理沙は何を話しているのか確認するため、聞き耳を立てる……。

 

「フフ……、この森は凄いわね……。今まで潰してきた、どのコミュニティよりも上質な素材が揃っている……。マジックアイテムの作成に困ることはなさそうね」

「偉大なる母上様が、最後の地にお選びになっただけのことはある……」

 

 服装と会話内容から魔理沙は女たちが魔女であることを確信した。だが、どの魔女も魔理沙が見たことのない奴らだ……。魔理沙はカッパの研究所で霊夢と紫が話していたことを思い出す……。幻想郷に侵入者がいるという話を……。魔理沙はこいつらが件の侵入者に違いないと判断した。しばらく様子を見ていると……、仲間と思しき魔女の集団が姿を現す……。

 

「おいおい……、何人いるんだぜ……?」

 

 魔理沙はあまりの数の多さにかぞえるのを諦めた。この魔女の集団、数十人はいるようだ……。これだけの数の魔女が紫に気付かれずに幻想郷に入ってきたのならば……、ボスは相当な手練に違いないと魔理沙は考える。

 

「……薬草とキノコは集まったのかい?」

 

 魔理沙は聞き覚えのある、年老いた声にピクリと反応する……。森の影から姿を現したのは……、人里で水晶を売っていたあの老婆であった。老婆は集団の中央に陣取っている。リーダー格であるのは間違いない。

 

「はい、母上様。この地の素材は上質な物が揃っております」

 

 母上と呼ばれた老婆は部下の魔女から献上された薬草とキノコを受け取り、値踏みをするように観察する。

 

「たしかに……良い素材じゃ……。我らが故郷に自生するものに勝るとも劣らない……。だが、貴様たち……情けないぞ。様子を窺っているねずみに気付かぬとは……」

 

 そう言い残すと、老婆は袖から杖を取りだし、瞬きもできない速度で電撃を繰り出す……。電撃は魔理沙が隠れる大樹にまっすぐ襲いかかって来た。

 

「うわわ!」

 

 電撃は大樹に直撃し、電撃に耐えられなかった大樹は黒焦げになりながら、その場で崩れ落ちる……。魔理沙は倒れる大樹を避けるのに精一杯でつい声を出してしまった。

 

「おやおや……。誰かと思えば……、人里にいた出来そこないのおお嬢ちゃんかい……」

 

 焦げた大樹より放出される黒煙……。その煙の隙間から覗く老婆の邪悪な笑みに、魔理沙は背筋を凍らされるのであった……。


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