「よっ! こーりん、久しぶりだな!」
行きつけの店……、香霖堂の店主に向かって、魔理沙は気さくな様子で話しかける。
「魔理沙か……。そんなに久しぶりな感じはしないが……、今日は何の用事だい?」
「ああ、なんか良いマジックアイテムが入荷してないか物色しにきたんだ。なんかある?」
「残念ながら、君が望むようなものは最近入荷してないよ。……どうせ弾幕のパワーを上げるような代物がほしいんだろ?」
「へへっ! あったりー!」
魔理沙は無邪気な笑顔を店主の森近霖之助に見せる。霖之助は、魔理沙の父親が営む道具店で働いていたことがあり、魔理沙が幼い頃からの付き合いだ。当時、住み込みで働いていた霖之助は魔理沙から見れば頼れる(?)兄貴的存在である。ちなみにこーりんは愛称だ。なぜ、こーりんになってしまったのかは霖之助も魔理沙も忘れてしまっている。
「大体、この前、魔力を増幅させる水晶を持って行ったばかりだろ。アレはどうしたんだ?」
「ああ、アレか……。壊れちまったぜ?」
「壊れ……って、ええ!?」
「ちょっと、テーブルから落としたら、パリーンだ! あの程度で壊れるなんて不良品じゃなかったのか?」
「あ、あのレア物を壊しちゃったのか!?」
「ああ、見事に粉々だったぜ」
「き、君がどうしてもほしいとだだをこねるから、嫌々ながら僕は売ったってのに……。いや、正確には買ってもらってすらいないぞ! たしか、あの時も君はつけにしといてくれと言って強引に持って帰ったからね!」
「そんなにカリカリするなよ。必ずつけは払うからさ」
「はぁ」
霖之助は反省の色が窺えない魔理沙を見て、ため息をつきながら頭を抱える。
「……とにかく、君が思うような商品は今ウチにはないよ。また日を改めて来ると良い……。それまでは僕が昔、君にあげたミニ八卦炉で我慢することだ」
「ああ、アレは未だに役に立ってるぜ。お世話になりっぱなしだ。ミニ八卦炉がなかったら、マスタースパークも十分な出力で撃てないからさ」
「マスタースパーク……。あの巨大なビーム攻撃のことか……」
「ああ、弾幕ごっこにおける私の必殺技だぜ?」
「弾幕ごっこ、ね。博麗の巫女が新たに制定しようとしている決闘のルール……。上手くいきそうなのかい?」
「なんだよ。こーりんも疑ってるのか? 私は絶対上手くいくと思うぜ?」
「……数多の争いを弾幕ごっこという遊びで決着させる……。普通の思考なら上手くいくとは思えないね。……相手を殺したいくらいの恨みを持つからこそ、殺し合いの争いが始まるんだ。それを遊びのようなもので勝負して、『はい、終わり』とはならないと僕は思うけどね」
「でも、『絶対の力を持つ』博麗の巫女が制定するんだぜ?」
「……言いかえれば……、博麗の巫女を超える者が現れれば、たったそれだけで瓦解してしまう制度とも言える……」
「心配ないって。博麗の巫女を超える可能性があるのは一人だけだ」
「……そんな奴を魔理沙は知っているのかい?」
「ああ!」
魔理沙は親指を立て自分に向ける。
「この私だ!」
「…………」
霖之助は頭を抱えて眉間にしわを寄せるのであった……。