東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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完全停止

「ったく……! 魔法を使えないのに無茶するんじゃないわよ……」

「助けてやったってのに……。その言い草はなんなんだぜ?」

 

 アリスはふうとため息を吐き、額の汗を拭う。

 

「ま、確かに助かったわ。礼を言っとく……。さて、百……何号って言ったかしら? この場を去りなさい。今なら命は助けてあげるわよ……」

 

 アリスは百十七号にもう手を出さないように告げる。しかし、百十七号がその場から動こうとしない。小さな声で何か呟いている……。

 

「おい、お前なにぶつぶつ言ってるんだぜ?」

「……さない……!」

「え?」と魔理沙が聞き直す。

「よくもシスターズ(お姉ちゃん)たちを……! 絶対に許さない……! この出来そこない……! うわああああああああああああああ!」

 

 百十七号は魔力をその身に集約し始める……。あまりにも強大な魔力に魔法の森がざわめく……。

 

「な、なんなんだぜ!?」

 

 魔法が使えなくなった魔理沙に伝わる程、強力な魔力を宿した百十七号は青白く光るオーラを身に纏っていた……。

 

「死んじゃえぇええええええええええ!!」

 

 百十七号は涙を流しながら、魔理沙に殴りかかる!

 

「魔理沙!」

 

 百十七号の魔理沙への攻撃……、アリスは上海人形を盾にしてかばい、受け止めた……。アリスは伝わる振動に違和感を覚える。

 

「あ、あなた……やっぱり……」とアリスは確信する。

「なにが『やっぱり』なんだよ! アリス!!」と魔理沙はアリスに問いかける。

「この子の体……中身がない……!」

「中身……?」

「この子の体の中は空洞なのよ!」

「空洞!?」

 

 魔理沙が驚いた顔をしていると、百十七号は口を開いた。

 

「そうだよ。私は人形だもの。グランマが造った百十七体目の人形……。それが私……」

「に、人形!? 嘘だろ!? 表情も動きも……涙だって流してるんだぜ!? こいつが人形!?」

「完全自動人形(パーフェクトオートマタ)……」

 

 アリスがポツリと呟く。

 

「人間と全く変わらない、思考、感情を持つ人形……。パーフェクトオートマタ……。自然発生する付喪神と異なり、人工的に生命を造り出す……。神に近しい所業……。……信じられないわね……。そのグランマとやら、間違いなく凄腕の魔法使いみたいね……」

 

 アリスは額から冷や汗をかきながら、まるで解説をするように百十七号に語りかける。

 

「当たり前でしょう? 私たち全員のグランマなんだもの……。……出来そこないさん、今すぐ殺してあげるから!」

 

 百十七号は再び、魔理沙に襲いかかる……が、アリスも再び上海人形で受け止める……。

 

「……アリスさん……あなた、邪魔するのね! あなたは私と『同じ』だから殺さないつもりだったけど……。もう容赦しない!」

「がっ!?」

 

 アリスは百十七号に蹴り飛ばされる。アリスを退けた百十七号は魔理沙に向かって人形型の魔力弾を撃ち込む……!

 

「うわわ!?」

 

 魔理沙は走って魔力弾から逃げ回る……。数発はかわすことができたが……、魔力弾の一発が魔理沙の背後で爆発を起こし、吹き飛ばされてしまう……。

 

「これで終わりだよ。死んじゃえ!」

 

 ダメージを受けて動くごとができない魔理沙に向かって、百十七号は一際大きな魔力弾を発射した!

 

「魔理沙!」

 

 魔力弾が魔理沙に直撃しようかというタイミングでアリスが魔理沙を抱えて飛び去る。しかし、魔力弾が地面にぶつかったと同時に発生した爆風で二人はダメージを受けてしまった。

 

「く……。でたらめなんだぜ……。霊夢の陰陽玉を超えてるんじゃないか!?」

 

 魔理沙は百十七号の威力ある魔法にたじろぐ。

 

「魔理沙! ちょっと耳貸しなさい……!」

 

 アリスは魔理沙に耳打ちをする。

 

「ああ、その類のマジックアイテムならあるぜ。なんか勝算があるんだな?」

 

 魔理沙の問いかけにアリスはコクリと頷く。

 

「作戦会議したって無駄だよ!」

 

 百十七号は宙に浮かぶと魔力弾を二人に向かって撃ち込んだ。アリスと魔理沙は二手に分かれて逃げる。百十七号は一瞬、攻撃の照準をどちらに合わせるか迷ってしまう。その隙を魔理沙は見逃さない。

 

「そらああああああ!」

 

 魔理沙は百十七号に向かってボール型のマジックアイテムを投げつける。ボールは破裂し、金属のネットが百十七号を包む。

 

「こんなもの……!」

 

 百十七号がネットから出ようともがく。しかし、もうアリスが次の一手を打とうとしていた。アリスはネットに自身が操るピアノ線を絡めつけ、魔力を流す……!

 

「う……あ……え……?」

 

 百十七号は動きを止め、地面に墜落する。

 

「な、なんで……? 体が動かない……!?」

「私の『人形を操る程度の能力』を使わせてもらったわ……! 私は人形遣い……。いくらあなたが『完全自動人形(パーフェクトオートマタ)』であっても、ベースは人形……。それならば、あなたを操れる……!」

 

 アリスはありったけの魔力をピアノ線に込める。普段、『本気では戦わない』という信念を持つアリスであったが、今回ばかりはその信念を曲げざるを得なかった。それほどまでに百十七号は強大な魔力を持っていたのである。

 

「く、く……。う、あぁああああああああ!」

 

 百十七号はネットを吹き飛ばそうと、強引に魔力を体に集める……。

 

「……!? やめなさい! それ以上魔力を使ったら……、体を保てなくなるわよ!!」

 

 アリスは百十七号の身を案じ、叫んだ。

 

「か、構わないもん。ここで出来そこないさんを逃したら、グランマに見捨てられちゃう……。そんなの絶対嫌ぁあ!」

 

 百十七号は自分の持つ魔力全てを振り絞り、ネットを破壊しようとする……!

 

「そ、そんな!? 押さえられない……!?」

 

 百十七号が放つ魔力は熱となり、ネットを溶かし尽くした。拘束から解放された百十七号だったが……、それが限界だった。

 

「あ、ああ、あああああ」

 

 百十七号の体がぼろぼろと崩れ落ちていく……。体の中から一体の人形が現れる。シスターズと全く同じ形の人形だった。百十七号の核となっていた人形である……。

 

「ご、ごめんな、さい……、グランマ……。見捨て、ないで……」

 

 ……百十七号の核は地面に前のめりに倒れ込み、完全停止するのであった……。


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