東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

37 / 219
『寺子屋』の教師

◇◆◇

 

「はぁ。やっと着いたぜ……」

 

 百十七号との戦闘から1時間……。アリスと魔理沙は人里に到着する……。戦闘を終えてからの移動は体に多大な疲労感を与えていた。

 

「アリスがおんぶしてくれたらもっと早く着いたのに……」

「わたしも魔力空っぽだったのよ!? そんな余裕あるわけないじゃない!! ……で、今から何処に向かうの? できれば私も泊めてほしいんだけど」

「良いとこがあるんだぜ! 今日はそこに泊めてもらう!」

 

 既に夜は深くなり、人里は静まり返っている。そんな中、魔理沙がアリスを宿として案内したのは、集会所のような建物だった。

 

「何よ? ここ……」

「むかし、ここでそろばんやら、習字やらを子どもたちが集まって学んでたんだ。あたしも何回か来たことがある」

「ふーん、人里でそんなことをやってた時期があったのね……」

「ま、今はタダの空き家なんだけどな……」

 

 魔理沙は慣れた様子で集会所の鍵を針金でいとも容易く解錠してしまう。

 

「……あんたまさか、いつもこんな盗人みたいなことやってるんじゃないでしょうね?」

 

 アリスが冷めた目で魔理沙を見つめる。

 

「やってねえよ! 今日は特別だよ。特別! 緊急避難ってやつだぜ!?」

 

 二人は集会所の中に入り込む。布団などの寝具はないが、一晩過ごすくらいは我慢できそうだ。二人は座敷部屋の畳に横になる。

 

「……アンタの実家に泊まってもよかったんじゃないの?」とアリスは魔理沙に問いかけた。

「…………」

 

 魔理沙はアリスの質問に答えない。アリスも魔理沙が父親と仲違いしていることをこれまでの付き合いの中、雰囲気でなんとなく察していたのでそれ以上は聞かなかった。

 

「…………魔理沙……!」

 

 アリスは物音に気付き、小声で魔理沙を呼ぶ。

 

「……この集会所、空家なんじゃなかったの!? 人の気配がするわよ……!」

 

 アリスは声を殺して魔理沙に確認する。

 

「たしかに空家だったはずだぜ……?」

 

 アリスは神経を集中させる。物音が近づいてきた。板張りの床を軋ませて人が歩く音がする。足音はアリスと魔理沙が休んでいる座敷部屋で止まった……。次の瞬間、勢いよく障子が開くと共に怒号が飛ぶ……!

 

「何者だ!? お前たち!! 私の『寺子屋』に何の用事だ!!」

 

 あまりの怒号に二人はその場で正座をして背筋をピンと伸ばした。怒号を飛ばした人間の顔が提灯の明かりに照らされて露わになる。白髪の美人だった……。

 

「す、すいません。私たち泊まるところがなくて……、たまたま鍵が開いていたこの屋敷に入ったんです……。空家だと思ってたんです。まさか人が住んでるなんて思わなくて……」

「鍵が開いていた……? ……閉め忘れていたのか……」

 

 アリスが咄嗟に吐いた嘘だったが、白髪の美人は人が良いのか、信じてしまった様だ。白髪の美人は二人の顔をまじまじと見る。

 

「よくよく見ると、二人とも年端もいかない女子か……。……勝手に入り込んだことは許し難いが……この夜中に追い出すわけにもいかないな……。……今日だけは泊まることを許そう。……明日の朝一には出ていくんだぞ?」

 

 白髪の女性はため息をついて、座敷部屋を後にしようとしたが、アリスが呼び止める。

 

「あ、ありがとうございます……! ……あ、あのお名前を伺っても……?」

「……私の名は上白沢慧音。……この『寺子屋』の教師だ」

「て、『寺子屋』?」

「……身分に関係なく、人里のこども達に教育をする場のことだ。もっとも、まだ生徒を募集している段階で、活動は始まってないんだがな……。……もう寝かせてもらうぞ」

 

 慧音は踵を返して、通路の奥へ向かおうとしたが、一旦立ち止まる。

 

「お前たち、今日が満月でなくてよかったな」

 

 意図のわからない言葉を残して、慧音は消えていった。魔理沙とアリスの二人はホッとため息を吐くと、横になる。安堵したのか、二人ともすぐに深い眠りに入るのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。