「ほう。これは幸運じゃったのう。このコミュニティの邪魔者を……、安定を司るシャーマンの娘を殺せるとは……」
テネブリスはにやりと顔を歪める。
「まさか、出来損ないの親子をかばって致命傷を受けてくれるとはのう。こればかりは出来損ないに感謝せねばならんか?」
「ふぜけやがって……!!」
魔理沙は怒りで顔を紅潮させ、テネブリスを睨みつける。
「くく……。そう怖い顔で睨みつけるでない……。それよりも良いのか? そこの紅白の服を着たシャーマンを心配しなくて……」
魔理沙はテネブリスの言葉を受けて、霊夢の方に視線を戻す。霊夢の顔色がどんどん蒼くなっていく。呼吸数も多くなり、異常に汗もかきはじめていた。
「霊夢! すぐに医者に連れてってやるからな。頑張るんだぜ!」
「逃がすわけがなかろう?」
テネブリスは杖を霊夢と魔理沙に向け構える。杖の先端に魔力が込められていく。霊夢の胸に風穴を空けた攻撃を再び撃とうとしているらしい。
「くっ!?」
テネブリスの杖が強い光を放つ。そんな中、霊夢が魔理沙の手をぎゅっと掴む。霊夢の目には少し涙が浮かんでいた……。
「ど、どうしたんだぜ? 霊夢……」
「ごめんね。魔理沙……」
「こんな時になに言ってんだよ……? それに謝るなんてお前らしくないんだぜ……?」
「わ、わたし……、アンタを傷つけちゃったわね……」
「なんのことなんだぜ……?」
「アンタが運を持ってないことを隠してたことよ……。でも信じて……。私がアンタに黙ってたのは、運を持ってないアンタを弾幕ごっこの普及のために利用するためなんかじゃないから……。アンタが運を持ってないって知ったら、もう魔法をやめちゃうかもしれない……。神社に来てくれなくなるかもしれない……。そう思ったから……」
「それ以上喋るんじゃないぜ……! 本当に死んじまう……。わかってるよ。お前が私を利用してないってことくらい! 私はお前が黙ってたことなんか気にしてないから……! 今は自分の体のことだけ考えとけ!」
魔理沙もまた、霊夢の懺悔の言葉を聞き、涙を浮かべる。涙の理由はわからない。霊夢が自分のことを本気で思ってくれていたことが嬉しかったからか、霊夢が死に直面していることに恐怖を感じているからか、眼の前で自分達を殺そうと杖を構える老婆への怒りからなのか、あるいはその全てか。魔理沙の両眼からは正負が混ざりあった感情が流される。
「最後の会話は終わったか? これで終わりじゃ……。死ねい!」
テネブリスは高速の光線を繰り出した。
「くそぉ!」
魔理沙は霊夢をかばうように抱きしめる。光線が直撃するかと思った瞬間、魔理沙たちの体から突然重力が失われ、地面に吸い込まれていった。
「……あの妖怪……、まだ生きておったのか……。しぶとい奴じゃ……」
テネブリスは地面に開いたスキマが魔理沙たちを飲み込んで閉じる様子を見て、苛立ちを抑えるようにつぶやいたのだった。