「ここは……どこだ?」
スキマに吸い込まれた魔理沙が目を開けると、見たことのない場所だった。周囲が竹林に囲まれた幾ばくかの建物の前に魔理沙たちは移動されていた。
「魔理沙……、大丈夫か……?」
魔理沙の父親が魔理沙に気を配る。
「親父……。わ、私は大丈夫だ。それより霊夢は!?」
魔理沙は周囲を見渡す。そこには胸を貫かれた霊夢の体に両手を当て必死な形相で延命活動に従事する八雲紫の姿があった。
「紫! 霊夢は!?」
「少し黙っててちょうだい! 今、生と死の境界を無理矢理あてこんでこの子が死なないようにしているの!」
紫の腕はやけどだらけになっていた。テネブリスの爆炎にやられたということもあるだろうが、霊夢の治療のために自身の妖力の全てを腕に集めているのが一番の原因だ。紫の表情にいつもの胡散臭そうな余裕の笑みは浮かんでいない。霊夢の状態はそれほどに深刻なのだろう。
「魔理沙! そこの建物の中に入って医者を呼んで来なさい! 八雲紫が来ていると言えばすぐ来るはずよ!」
「わ、わかった!」
「もう来ているわよ」
魔理沙が建物に駆けだそうとすると目の前に長い銀髪を頭の後ろで一本の三つ編みにまとめた美女が立っていた。
「それだけの妖力を放っていれば、うちの兎たちだって気付くわよ……。……それは博麗の巫女ね? 初めて顔を見たわ」
「……悠長なことをいわないでちょうだい! 八意永琳……、早く霊夢を見てもらうわよ! あなたたち月の民が隠れ住んでいるのを私が黙認しているのは、こういった事態が起こったときのため……。もしこの子に何かあったら……、あなたたちを幻想郷に置く理由はないわ!」
紫はあくまで幻想郷の賢者という姿勢を崩さず、左右に赤と青でセンターに色分けされた独特な服装を着た銀髪の美女、八意永琳に命令する。
「切羽詰まっているのはあなたの方でしょうに……。よくそんな強気に出られるものね。まあ良いわ。私たちもこの幻想郷から追い出されるわけにはいかない。あなたの要求を飲みましょう。もっとも、私は最初から困っている人間や妖怪がいれば立場に関係なく救うつもりよ」
英琳は意識のない横たわった霊夢のもとに歩み寄り、診察を始める。
「これは、思った以上に深刻ね。完全に心臓を貫かれている……」
「助かるの!?」
紫はヒステリック気味に永琳に問いかける。
「五分五分といったところね……。いや、五分より勝算は少ないかもしれない」
「ふざけないで! この子にもしものことがあったら……、その時は……!」
「そう言うと思ったわ。……落ち着きなさい。幻想郷の賢者ともあろう者が小娘一人の命にあたふたしている姿は無様よ」
「この子はただの小娘じゃないの! わたしにとって大切な……!」
「大切……ね。それは本当にこの子のことを言ってるの? それともこの子の中にいる……。……まあいいわ。てゐ! いるんでしょう? うさぎたちを使って診療所内にこの巫女を運び込みなさい! そして、鈴仙に連絡! ……もしものときのために、姫にも声をかけておいて」
「わかりました。お師匠様!」
突然竹林から飛び出て来た兎の耳を持つ妖怪は同じ姿の兎妖怪とともに霊夢を診療所へと運んで行く。
「八雲紫、そしてそこの白黒のお穣ちゃんに男性の方、疲れたでしょう? 少し休むといいわ。ここから先は私にまかせなさい」
魔理沙は八意永琳の凛々しく自信に満ち溢れた表情を見てなぜか不思議な安心感を覚えるのであった。