東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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正真正銘

 紅魔館……。吸血鬼の幼女、レミリア・スカーレットがそう称した館はその名のとおり、赤色に染め上げられている。既に門番がやられたため、館の時計台が良く見える庭には数十人の魔女たちが侵入し、小悪魔メイドたちと交戦していた。しかし、門番よりも数段戦闘力の落ちる小悪魔メイドたちが魔女たちに勝てるはずもなく、防戦一方であった。

 

「……まったく、我が紅魔館に招待状なしにずかずかと……。覚悟はできているのかしら?」

「お、お穣様。ここは危険です。お下がりください!」

 

 レミリアは小悪魔メイドの言葉ににやりと顔を歪める。

 

「確かに、ここは危険ね。……なぜなら、今から私たちが暴れるのだから! パチェ!」

「はいはい。小悪魔メイドたち! 私の炎魔法の巻き添えになりたくなければ下がりなさい!……ロイヤルフレア……!」

 

 パジャマの様な服装をした紫髪の少女、パチュリー・ノーレッジは炎の魔法を繰り出す。

 

「きゃぁあああああああああ!?」

 

 おそらく下っ端と思われる魔女たちはなす術もなく、強大な火炎に飲み込まれ、悲鳴を上げる。下っ端魔女たちの力量では耐えることができないほど、パチュリー・ノーレッジの攻撃は洗練されていた。

 

「く、くそ……。はぁああああ!」

 

 炎攻撃を受け、やけどを負った魔女の一人が短剣を手にしてレミリアに襲いかかる。

 

「手負いのくせに私に牙を向けるなんて、勇敢なのね。でも……」

「か……は……!?」

 

 レミリアに襲いかかった魔女は口から鮮血を吐きだす。彼女の腹部にはレミリアの腕が貫通されていた。

 

「残念だったわね。あなたと私では格が違いすぎるの」

 

 レミリアは魔女の耳元で囁くと、腹部から腕を抜く。レミリアに襲いかかってきた魔女はその場に崩れ落ち息絶えた。レミリアは手に着いた血を舌で舐めとる。

 

「はしたないわよ、レミィ」

「そうね、パチェあなたのいうとおりだわ。私としたことが……。でも許してくれないかしら? この幻想郷に来てからは滅多に人間の血が吸えないんだもの。ストレスがたまってしまうわ」

「……良く言うわよ。幻想郷に来る前も大して人間の血なんて吸ったこと……」

「パチェ!?」

 

 レミリアはパチュリーの口を慌てて押さえる。

 

「パチェ、今私は恐怖の吸血鬼を演じているの。あなたもそれに乗っかってちょうだい……!」

 

 レミリアは小さな声でパチュリーにオーダーする。パチュリーはまた下らないことを……と思いつつもレミリアの演技に乗ることにした。

 

「さて、死にたくなかったら、この館から去ることね!」

 

 レミリアは魔女たちに警告をする。レミリアとしても戦闘を長引かせることは避けたかったからだ。魔女たちが逃げてくれればそれに越したことはないとレミリアは考えていた。

 

「ひ、ひぃいいいい」

 

 魔女の一人が恐怖からか怯えた声を上げて逃げ出そうとする。

 

「どこに行くつもりなの?」

 

 少年のような声が鳴り響く。紅魔館を襲った魔女集団……そのリーダー格と思われる者が外套を外し、逃げ出そうとした魔女を問い詰める。

 

「カ、カストラート様……」

「ダメだなぁ。命令を破って逃げ出そうとするなんて……」

 

 外套を外した少年のような魔女は目を細くして微笑む。しかし、その頬笑みの下には黒いものが感じられた。

 

「お、お許しください、カストラート、さ、ま……?」

 

 許しを乞うていた魔女の胴体が横一閃で真っ二つにされる。カストラートの杖から放出される剣状の光が切り裂いたのだ。その様子を見ていた魔女たちは背筋を凍らせる。

 

「まったく、だから君たちは『ドーター』にすらなれないんですよ? さあ、戦いを続けるんだ。僕に殺されたくなかったらね!」

「う、う、うわぁあああああああああ!?」

 

 カストラートに恐怖でけし掛けられた下っ端の魔女たちは、再び立ち上がりレミリアたちに襲いかかる。

 

「……く!? パチェ! 仕方がないわ……。全力で魔法を放ってちょうだい!」

「もうそうしてるわ……。……サイレントセレナ!」

 

パチュリーは楕円状の水色をしたエネルギー弾を四方八方に死角がないように打ちこむ。下っ端の魔女たちは例外なく弾に打ち抜かれ倒れていく。

 

「がっ……!? ……」

 

 下っ端魔女の最後の一人が絶命し終えたと同時に拍手が聞こえてくる。拍手をしていたのは、カストラートだった。

 

「すごいですね。実験動物(モルモット)にしてはやるじゃないですか」と、カストラートはレミリアに向かって話しかける。

「……モルモット? ……不愉快な男ね」

「いやだなぁ。僕は正真正銘、女ですよ。よく間違われるんです」

 

 レミリアはにやにやと笑うカストラートを見て苛々を募らせるのだった。


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