「さて、どちらから片づけてあげましょうか……。……やはり、吸血鬼よりも魔法使いを先に殺してあげましょう。吸血鬼程度ならどうとでもなりますからね」
「この紅魔館の主、レミリアをここまでバカにするなんて……。よっぽど自分の力に自信があるみたいね」
「ええ。僕は吸血鬼(モルモット)の扱いには長けていますからね。その辺の家畜と同じですよ。屠殺(とさつ)することなど容易い」
「……レミィ。ここは私に任せてもらえるかしら?」
「どうしたのパチェ? あなたが好戦的になるなんて珍しいわね」
「……私だって友人がバカにされて腹に立っているのよ? それに……」
パチュリーはレミリアの目を見つめて何かを言おうとした。パチュリーは『何か嫌な予感がする』とレミリアに伝えようとした……が、いらぬ不安を持たせる必要はないと思い直し、出しかけた言葉を飲み込んだのだ。
「とにかく、あいつの相手は私がやるわ。レミィは引っ込んでなさい」
「……そう、じゃあお言葉に甘えることにするわ」
レミリアはパチュリーの意志を尊重し、戦闘をパチュリーに任せることにし、自身は宙を舞い、紅魔館のバルコニーまで後退した。
「……まさか、僕を相手に二人がかりでなく、一人で闘うつもりなんですか?」
「ええ。あなたなんてレミィが出るまでもないわ。わたし一人で始末してあげる」
「僕も舐められたものだ。教えてあげよう。お前たち程度が僕相手に一人で闘うことが自殺行為でしかないことを! たかだか百年かそこらしか生きていない魔法使いにキャリアの違いを見せてあげるよ」
「ええ。お手並み拝見させていただくわよ。先輩? ……『プリンセスウンディネ』!」
先に動いたのはパチュリーだ。地面をえぐる強力な水魔法が直線状に放出されカストラートに迫る。
「……やはり、天賦の才を持っていますね。百歳程度の魔法使いとは思えません。だが、圧倒的な経験(キャリア)の前では無意味だ。……『イヌンデーショ』!」
カストラートは力の違いを見せつけるようにパチュリーの放った水魔法と同様に直線状の水魔法を放ってきた。水圧に劣るパチュリーの水魔法はカストラートのそれに押し返され、耐えることのできないパチュリーは放出をやめ、空へと飛び上がった。
(あれほどの流水魔法を使えるなんて……。……やっぱりレミィと闘わせなくよかったわ)
吸血鬼は流水が弱点だ。いかに力のあるレミリアとはいえ、弱点を突かれて闘っては苦戦を余儀なくされる。パチュリーは自分の判断が正しかったと確信した。
「僕の魔法を受けても冷静に回避する。やるじゃないですか。でも甘い! 『トーニトルア』!」
パチュリーが飛ぶことを予測していたカストラートはさらに上空に飛び上がり、パチュリーの『上』を取り、雷を落とした。
「きゃあぁあああああああ!?」
電撃を受けたパチュリーは空を飛ぶための魔力調整ができなくなり、地面へと叩きつけらるのだった。