「……実験動物の分際で、よくも僕の服にほこりを付けてくれましたね?」
「あら、ほこりで済んでよかったじゃない? 安心しなさい。次はその綺麗な服に死を磨り込んであげるわ」
レミリアはパチュリーを抱きかかえると、小悪魔メイド達が待機するバルコニーまで飛んでいく。
「あなたたち、パチェの手当てを頼むわよ?」
「はい、お嬢様!」
「レ、レミィ……」
パチュリーは消え入りそうなか細い声でレミリアを呼ぶ。
「パチェ、ゆっくり休んでちょうだい」
「レミィ、……気を……つけなさい……」
「ええ。でも大丈夫よ。私は紅魔館の主であり、あなたの友人なのだから」
レミリアはパチュリーに背を向けると、カストラートの前まで素早く移動する。レミリアの着地に耐えられなかった中庭の敷石が砕け、砂埃が舞う。
「そんなに死に急ぐ必要もないでしょうに……」
「そのにやけ面、すぐに真剣な表情に変えてあげるわ」
「まったく実験動物のくせに、主人である我々魔法使いに楯突くとは……。あっさりと屠り殺してあげますよ」
「パチェが受けた屈辱は、私が受けた屈辱と同じ……。覚悟しなさい。生かしては帰さないわ」
「実験動物にもジョークが言えるんですね。これはデータを残しておかなくては……」
「……すぐにその不愉快な口が聞けないようにしてあげるわ!!」
レミリアは地面を強く蹴り、猛スピードでカストラートに突進する。
「なるほど。ジョークを言うだけのことはある。今まで見てきた吸血鬼(実験動物)の中でもトップクラスに素早い」
「スピードだけじゃないわよ?」
レミリアは爪を立て、逃げるカストラートに突き刺そうと腕を伸ばす。カストラートは円形の防御陣を張るが、レミリアの爪はそれをいとも簡単に砕く。
「へえ。パワーもすばらしい。まったく残念だ。こんな素晴らしいモルモットを実験に使えずに殺さなければならないとは……」
「いつまでも口の減らないやつね」
「さて、それではお見せしましょう。吸血鬼の殺し方をね。と言っても何も斬新なことはない。死ぬまで殺す。それだけだ」
カストラートが杖を構え、魔法陣を展開すると、シャボン玉状の流水がレミリアを覆う。
「吸血鬼の殺し方その1 『流水に閉じ込める』だ。そして……攻撃です」
流水の一部が氷柱に変化し、レミリアに襲いかかる。
「ほらほらぁ! ハムスターのように必死に逃げ回れ! でなければ串刺しですよぉ!?」
氷柱はレミリアを嬲るようにじわじわとダメージを与え続ける。
「性根の悪さが表れた下らない攻撃を……」
レミリアはカストラートの攻撃をかわしながら体内に魔力を蓄えて行く。
「はああああああああああああ!!!!」
レミリアは体内から魔力を放出し、自身を中心に紅い十字架状のエネルギー波を造りだす……! エネルギーを受けた流水球は破壊され四散した。
「ふーん、吸血鬼のくせにやるじゃないか」
カストラートは相も変わらず、にやけた表情でレミリアを評価するのであった。