「さて、次は私の番ね」
レミリアは自身の足元に魔法陣を展開し、クナイ状のエネルギー弾を宙に発生させた。数えることが不可能な程の大量のクナイである。
「これはこれは……吸血鬼なんて下等生物が魔法を使うとは……」
「どこまでも私たち吸血鬼を馬鹿にしないと気が済まないみたいね。良いわ、すぐにその口を血で塞いであげるわ。……『全世界ナイトメア』!!」
宙に浮いていた無数のクナイ状エネルギー弾がカストラートに向かって射出される。
「素晴らしいエネルギー密度だ。これは当たるとまずいですね。それにしても『全世界ナイトメア』とは……失笑ものですね。もうすこし、ネーミングセンスを鍛えた方がいいのでは?」
カストラートは空を舞い、レミリアの攻撃を避けようと試みる。
「逃がすか!!」
レミリアは逃げるカストラートに照準を合わせエネルギー弾の射出方向を修正する。エネルギー弾は花火のように美しい弾幕を造りだした。
「器用なことをしますね。下等生物といえども経験を積めば知恵をつけるというわけか。……鬱陶しいですね。動きを止めてあげましょう。……ルガト! 樹の下に隠れなさい!」
「う、うん。わかったよ。カストラートさん……!」
カストラートは仲間に指示を出すと杖を持ち、呪文を唱え始める。すると、満天の星空で埋め尽くされていた空が急速に雨雲に覆われ、光が失われる。
「吸血鬼の殺し方その2 『豪雨で動きを封じる』だ。どうです? 雨に打たれて力が出せないでしょう?」
レミリアがカストラートの問いに答えることはなかった。すでにカストラートの魔法によって発生した雨に……すなわち流水に身を蝕まれたレミリアは『全世界ナイトメア』を解除せざるを得なくなっていた。カストラートはレミリアが弱っていることを確認すると、地面に降りゆっくりとレミリアの近くに歩みを進める。
「このままあなたのような優秀なモルモットを実験にも使えずに殺すのは惜しいですね。この館を解体し、あなたたちのグループを解散し、僕たちに服従するならば命だけは助けてあげますよ? 僕たちがここに来た目的はお母様に敵対する可能性のある者を屠るため。僕たちに服従するのならば殺す必要はありませんからね。もっとも、吸血鬼のあなたは実験動物として扱われますが……、……あなたのお仲間の命は保証しましょう。どうです? 悪い話ではないでしょう?」
「……言いたいことはそれだけかしら?」
レミリアはうずくまったまま、カストラートを睨みつける。
「まだ、反抗するつもりですか。どうやら僕の提案を呑むつもりもなさそうですね。いいだろう。実験動物らしくみじめに死ぬがいい!」
カストラートは杖に魔力を集め、剣状の光を発現させる。
「……スピア・ザ・グングニル……」
レミリアは小さな声でささやく。レミリアの右手に槍状の紅い光が現れ、激しく輝いた……!
「何だと!? まだそんな力が……!?」
「はぁあああああああああああああああああ!!!!」
レミリアは紅い槍『グングニル』を振り回し、カストラートの杖を叩き落とすと、そのままグングニルをカストラートに向かって投擲する。
「ぐっ!?」
カストラートは超高速で自身の顔面に向かってくるグングニルを寸前でかわす。グングニルはカストラートの頬を掠めると、進行方向を天に変え、雨雲を貫通していった。雨雲はグングニルのエネルギーによって散り散りになり、隠されていた満天の星空と満月が再び姿を現す。
「僕の造った雨雲をかき消しただと……!? なんてデタラメなエネルギーだ……!?」
「今更驚いても遅いわよ。あなたが喧嘩を売ったのはただの吸血鬼じゃない。……紅魔館の主、このレミリア・スカーレットにとって流水など弱点ではないわ!!」
レミリアは雨で濡れた髪を手で拭いながら再びグングニルを発現させるのだった。