「殺してやる!!」
フランは手の爪を立てると、カストラートを斬り裂こうと飛びかかる!
「何故だ!? 何故僕の『声』が効かない!?」
「はぁあああああああああ!!」
フランの爪がカストラートに迫る。カストラートは声による攻撃を諦め、魔法で障壁を作りだし、受け止める。
「こんなもの……壊れちゃえ!!」
フランの言葉を合図にするように、カストラートの展開した障壁が爆発とともに砕け散る。
「なにぃ!?」
得体の知れない力で障壁が破壊されたことにカストラートは驚きを隠せない。比較的長い時間を生きている彼女だが、経験したことのない力に動揺していた。
「き、貴様、一体僕の魔法に何をした!?」
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を私は持っている。お前の腕を破壊したのもその力よ」
「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力だと? デタラメな力を吸血鬼ごときがなぜ……!?」
「ふふふふ。お母様が下さった翼を侮辱した罪は重い。次は心臓を壊してあげるわ!!」
フランはカストラートの胸に視線を集中させる。
「貴様、なぜ僕の胸を凝視している!?」
「だって、心臓の『目』がわからないと壊せないんだもの」
「『目』? その御大層な能力は発動するのに条件があるようだな。そんなものを待ってやるつもりはない! ……さっきのは何かの間違いだったんだ……。今度こそ僕の声を貴様に浴びせてやる……!」
カストラートは再び左手に銀の十字架を掲げるとフランに照準を合わせ、発声する。しかしフランには何の症状も現れない。
「なんで……。貴様、本当に吸血鬼か!?」
「当たり前でしょう? 私はお父様とお母様から生まれた生粋の吸血鬼よ!」
「くそぉお!! ……『声』が効かないならば、直接殺すだけだ!!」
カストラートは光の剣を顕現させ斬りかかる。
「もう遅いよ?」
フランは不敵な笑みを浮かべながら、右手を前に出し、開いていた手を握りしめた。
「きゅっとしてドカーン」
「ぐ……は……!?」
フランは心臓を破壊した。カストラートは口から鮮血を噴き出す。
「ざまあみろ!」
フランは笑みを浮かべていた表情をニュートラルに戻すと、眉を吊り上げる。
「あ、ああああああああああああああ!!」と叫びながらカストラートは痛みに耐えながら魔法を発動させる。
カストラートの胸を柔らかな緑の光が包む。回復魔法を使っているようだ。程なくして息切れを起こしながら立ち上がる。
「よくも、僕の心臓を潰してくれたな!? 心臓の再構成に多量の魔力を消費させやがって……!! この下等生物がぁ!!」
「まだ、生きてるんだぁ……。しぶとーい」とフランは怒りとあきれを合わせたようなトーンで喋ると、再び掌をカストラートに向けて広げてからギュッと握る。爆発音とともにカストラートの左足が吹き飛ぶ。
「う、ぐ、あああああああああ!?」
「怒りのまま、一瞬で殺してあげようと思ってたけど、変更。少しずつ砕いていってあげる」
片足を失い、まともに立つことが出来なくなったカストラートの元にフランはすこしずつ歩みを進める。実力差は明らかであった。『声』があったからこそ吸血鬼に対して優位に立てていたカストラートだが、フランにはその『声』が効かなかった。身体能力、魔法の破壊力に劣るカストラートにもはや勝ち目はない。しきりに『この下等生物が!』とフランに咆哮し続ける彼女だが、誰から見てもそれは負け犬の遠吠えであった。
「あははは! 次は右足を壊してあげる!」
フランの表情からは怒りの感情が抜け、純粋な笑顔がかいま見えた。目の前で自分より圧倒的に弱い者が命を失うことに対する喜び。吸血鬼の本能に逆らうことができず、幼いフランは破顔してしまうのだ。
「だめええええええええええ!!」
フランとカストラートの間に割り込んでくる少女が一人。背丈はフランよりも大きい。フランが人間で言えば5、6歳くらいの見た目であるのに対し、少女は15、6歳程だろうか。外套から黄色い長髪を覗かせている。
「ル、ルガト……」とカストラートは呟く。
「あら、そこの魔法使いのお仲間?」
フランは不敵な笑みの視線をカストラートからルガトに移した。