「フ、フフフフフ……。す、凄い。わ、私の攻撃を受けても全然響いてない。やっぱり『先祖返りの吸血鬼』は偽物とは違う……」
「その気弱そうで不快な笑みを今度こそ消してあげる! 壊れちゃえ! キュッとして……ドカーン!!」
フランはルガトに向けた右掌を握りしめた。しかし、やはりルガトが破壊されることはなかった。
「い、言ったでしょう? 私はあなたと同じ。破壊の力を持っている。わ、私にその力は通用しないよ」
「……そうみたいね。なら、直接殴り壊すだけよ!」
フランは宙を舞い、ルガトに襲いかかる。
「げ、元気もいいのね。連れて帰ればお母様も喜ぶわ」
フランの拳がルガトの顔面に衝突する。
「でも、私には及ばない」
「くっ!?」
フランの全力の拳を受けたルガトだが、まるで応えていない。
「つ、次は私の番ね」
ルガトは翼を大きく広げると激しく羽ばたかせ、竜巻を発生させた。強風に耐えられないフランは強制的に空中に投げだされる。
「羽ばたきだけでこの威力が出ちゃうの!? ふざけた奴!」
風で上手く身動きの取れないフランにルガトが突進する。
「こ、これでどうかしら……!」
ルガトは突進の勢いそのままにフランを蹴りあげる。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!?」
フランはさらに上空へと打ち上げられたが、体勢を取り直し、下方にいるであろうルガトを探そうと視線を下に向ける。
「どこに行ったの!?」
フランはルガトを見失い、地上の方をきょろきょろと見回すがルガトの姿は見当たらない。
「こ、こっちだよ?」
「な!? いつの間に!?」
フランが空を見上げると、そこには今まさに魔法を放たんとするルガトの姿があった。黒翼の吸血鬼はフランの予想を遥かに上回る超スピードで上空へと高速移動しフランの上を取ったのである。
「た、叩きつけてあげる」
ルガトはフランに向け、光線状の魔法を放出する。直撃を受けたフランの体は地上に真っ逆さまに落ちていき、激突した地表は小規模なクレーターのようになってしまう。
「や、やり過ぎちゃったかしら? し、死んじゃった?」
地上に舞い降りたルガトはクレーターの中で倒れているフランを確認しながら呟く。
「か、勝手に死んだと思ってるんじゃないわよ……」
フランは血混じりの咳をしながらふらふらと立ち上がる。額も切ってしまったのか、顔には血の流れができていた。
「す、すごいすごい。やっぱり研究室の失敗作たちよりも体が頑丈なんだね。さすがは『本物の吸血鬼』」
おどおどしたような表情のまま、驚いているルガトの姿を見てフランはイライラを募らせる。
「人を散々いたぶっておいてその表情は不愉快ね。絶対壊す!」
「あ、あら、あなただってカストラートくんをいたぶっていた時、顔を醜く歪めていたじゃない。ひ、人のことは言えないと思う。でも、それでいいんだよ。本物の吸血鬼は残酷で傲慢でなきゃいけない。お母様もそうおっしゃっていたわ」
「自信のなさそうな根暗顔の割りにぺらぺらと喋るわね。……今すぐその口を黙らせてあげるわ!」
フランは顔の血を飛び散らしながらルガトの側頭部に蹴りを浴びせる……が、いとも簡単に腕で受け止められてしまう。
「……む、無理よ。あなたと私じゃ体格差があり過ぎるみたいね。あなた、カストラートくんが言うには成長が遅いみたい。でも、安心して? お母様の元に来ればすぐに大きくしてもらえるわ。私も本来は2年で死ぬところをお母様が調整してくれたの。永遠に近い寿命を与えてくださったわ」
「そう、じゃあ私もそのお母様とやらにお願いしたらお姉さまより先にナイスバディの美女になれるのね。それは少し興味あるかも……。……でも、結構よ。私はお父様とお母様と同じように運命を受け入れるの。永遠に生きてたら、お父様とお母様のもとに行けないじゃない。そんなのイヤ」
「あ、あなたの意見は聞いてない。お母様があなたを生かすと言えば生きてもらうし、不要だと言えば死んでもらわないと……」
「あなたたちの親玉は随分と勝手みたいね。あのカストラートとかいう魔法使いがクソババアと言っていたのも納得だわ」
「そ、それ以上、お母様の悪口を言うようなら死んでもらわなきゃいけなくなるからやめてね。とにかく、あなたは連れて帰る。お母様に見てもらわなきゃ。ちょっと手荒な真似になるけど少し弱らせてあげる」
そう言うと、ルガトはフランに左の掌を向ける。
「見つけたわ。左腕の『目』を」
ルガトは拡げていた掌をぎゅっと握りしめた。フランが破壊の能力を行使するのと同じ姿だ。次の瞬間、フランの左腕が破壊され、肉と血が花火のように飛び散る。
「う、が、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
フランは大声で悲鳴を上げ、その場でうずくまった。