「ああああああああああ!?」
フランは失った左腕の出血を抑えるように肩口を残った右腕で掴む。いかに吸血鬼といえども、腕を失った痛みはそうそう耐えられるものでもないらしく眉間にしわを寄せ苦悶の表情を浮かべる。
「あ、あははは……! すごいすごい。腕を破壊したのに……もう回復しそうになっている。や、やっぱり『先祖返り』は全ての能力が既存のあらゆる生物を上回るんだ……」
ルガトの言葉どおり、フランの左腕はもう生え変わろうとしていた。
「ぐっ!? なんで? なんで私の破壊する程度の能力はお前に効かないのに……。お前の能力は私に通用するのよ……!?」
「か、簡単なことだよ。私の能力があなたのそれを大きく超えているから。吸血鬼の破壊の能力は打ち消し合う。私の能力はあなたが打ち消す以上に大きい」
ルガトはさらに何かを握りしめるポーズを取る。次はフランの右脚が吹き飛んだ。
「あ、きゃあああああああああああああああ!!!?」
ルガトはフランとの力の差を見せつけるように、更なる能力行使をする。
「さ、さあ。大人しく私に付いて来なさい。お母様にご判断していただくの。私と同じく友になる資質があるか確認してもらわないと……」
「……人の脚を潰しておいて勝手なことを言ってくれるわね。次は私の番!」
今度はフランが『目』を潰すポーズを取る。しかし、ルガトには何のダメージも入らない。
「む、無駄だよ? あなたと私には絶対的な差があるもの」
「自信なさげに言われるとなおのことムカつくわね」
「は、破壊の力の比べあいだけじゃ、実感が湧かないのね。い、いいよ。単純な力比べをしましょう?」
「……ふざけたことを……!」
フランは右脚が再生すると、ぴょんぴょんと感覚を確かめるように跳びはねる。
「後悔しても知らないわよ?」
「だ、大丈夫だよ。あなたが私に勝つことはないから」
「ムカつくやつ! ぶっとべええええ!」
フランは左拳を作るとルガトの顔面に向かって殴りかかる。ルガトもそれに反応するように拳を握りしめ、フランの拳に向かって放った。二人が拳をぶつけ合う形になる。
接触から一瞬間を置いて叫び声が聞こえてきた。叫び声の主は……フランである。
「う、うううううううぅうう……」
フランの左腕はルガトとの衝撃で肉が裂け、血が滴っている。拳も砕けてしまっているようだ。
「ふ、ふふふふ。左腕が消し飛ばないだけでも凄いと思うよ。並みの妖怪(モンスター)なら、体が消し飛ぶ威力なんだもの」
「……分が悪いのはたしかなようね。……私があんたのお母様のところに行けば、私の仲間や従者たちは見逃してくれるのかしら……」
「も、もしかしてお母様に服従する気になった……? い、いいよ。あなたが来るならお仲間には手を出さない。で、でもアレはだめ」
ルガトは気を失ってしまって倒れているレミリアを指さした。
「お母様は失敗作の吸血鬼紛いは大嫌いなの。だから、アレを生かすことはできないわ。良くて実験動物になるだけ。命を助けることはできない。でも、あなたはアレをそこまで好いてもいないんでしょう。目を見ればわかるわ」
「……そう。お姉様はダメなのね。……たしかに、私はお姉様が嫌いだわ。消えればいいのにと思うこともある。でも、死なせるわけにはいかないのよ。……レーヴァティン!」
フランは奇妙な形の杖を顕現させると、それに炎を纏わせ剣のように振り回した。レーヴァティンの切っ先はルガトの頬を掠める。頬には浅い切創ができ、血が滴る。
「私はお父様と約束したの。お姉様を守るようにね」
フランはレーヴァティンに纏わせた炎を一段と大きくさせながらルガトに回答するのだった。