「モーンブレイド!?」
「う、うん。それがこの大剣の名前。か、かっこいいでしょ? き、気に入ってるんだ」
「……ただの剣じゃないみたいね。禍々しい気配を感じる……。」
「あ、当たり前じゃない。お、お母様が私のために用意をしてくださったのよ。友として相応しい武器をね」
「……あなた、さっきから友、友って。あなたのお母様はそんなに友達が欲しいの?」
「お、お母様が欲しがってるんじゃあないよ」
「じゃあ、誰の友達よ?」
「そ、それはお母様から直接お聞きになって。私からは言えないわ」
「あっそう。わかったわ。あなたを壊して、そのお母様とやらに聞く。ついでにお母様も壊してあげるわ」
「できないと思うよ?」
フランは奇妙な気配に気付き、ルガトから距離を取る。
「す、すごい。やっぱり先祖返りの吸血鬼は第六感も優れているんだね。私のモーンブレイドの特殊さに気付いたんだ」
「……第六感なんてなくたって気付くわよ。あなたのその剣、私のレーヴァティンから魔力を吸い取っていた」
「も、もう見抜いたんだ。さすが本物の吸血鬼」
「さっきから先祖返りだの本物だの、不愉快よ。私にはフランドール・スカーレットっていう名前があるの」
「ご、ごめんなさい。じゃ、じゃあ今度からフランちゃんって呼ぶね? わ、私はルガトだから、ルーちゃんって呼んで?」
「嫌よ、気持ち悪い」
「ひ、ひどい……」
ルガトは傷付いた様子を見せると、モーンブレイドから闇色のオーラを溢れさせる。
「ひ、ひどいこと言ったフランちゃんには罰を与えなきゃね。痛めつけるだけじゃあ足りない。は、半殺しにしてお母様のところに連れていく!」
「クレイジーな奴……!」
ルガトの大剣から溢れたオーラは狼のような形になると、フランを食いちぎらんと牙を見せて噛みつこうとする。
「くっ!? この剣、魔力を奪うだけじゃないわね……!?」
「ふ、ふふ。そうだよ。この剣の本来の用途は魂を喰らうことだから」
「……何が半殺しよ。全殺しに来てるじゃない……!」
「は、半分だけ魂を食べれば半殺しでしょ? だ、大丈夫安心して? 魂が半分なくなってもお母様が修復して下さるわ。フ、フランちゃんはお母様に従順な、友候補として生まれ変わることができる。す、素晴らしいでしょ?」
「さらっと狂ったことを言うんじゃないわよ! この根暗吸血鬼!」
フランは襲い来る闇色の狼をレーヴァティンでいなしてかわす。
「あ、あはは。い、いつまで持つかしら!」
フランは狼から逃げ続けながら、隙を窺う。
「ここだぁ!」
フランはレーヴァティンの炎を強め、振り下ろす。炎の斬撃を受けた狼は焼き払われ消滅する。
「あ、あっはは! す、すごい! それならこれはどう!?」
ルガトは大剣を振り回し、二匹の狼を繰り出す。
「くっ!?」
猛スピードで追いかけてくる狼二匹に対してフランは回避一辺倒になってしまう。
「さ、さあ。フランちゃんを食べちゃいなさい!」
ルガトが狼に指示を下す中、フランは一瞬の隙を見つけ一匹の狼を焼き払う。
「さ、さすが、フランちゃん。す、隙を逃さないね。で、でもね。それは囮」
ルガトは病んだ笑みを浮かべる。レーヴァティンを振り抜き、構えを取り直すことができていないフランをもう一匹の狼が口を広げて飲みこんだ。
「や、やったぁ!」
フランが飲みこまれたのを視認し、ルガトが大声で喜びを口にする。
「は、半分だけ食べるんだよ?」とルガトが狼に指示を出そうとしていると、狼の腹が突然爆発する。
「な、なに?」とルガトは口にしたが、状況を把握する時間もなく、腹部にレーヴァティンが突き刺さる。
「な、なんで?」
「さすがの私も死んだと思ったわ。あなたには破壊の能力が効かないけど、この狼には効くみたいね。助かったわ」
フランはルガトに突き刺したレーヴァティンを振り切り、切断する。
「永遠にごきげんよう。根暗吸血鬼様」