立ち上がったレミリアは服の袖で涙を拭いながら、ただただ『ごめんなさい』と連呼するばかりだった。普段おどおどした口調で話すルガトでさえ苛立つぐらいに『ごめんなさい』としか言わないレミリアにルガトは詰め寄り胸倉を掴む。
「クソガキィ! 何をめそめそしているの!? 私のモーンブレイドを……、お母様から頂いた聖遺物クラスのレアアイテムを壊したのはお前かと聞いているのよ!?」
「うっ。うっ。お、お姉ちゃん、誰?」
「……はぁ……?」
嗚咽混じりに話し始めたレミリアの脈絡のない質問にルガトはポカンと口を開く。
「父さまと母さまはどこ? フランもどこにいったの?」
レミリアはきょろきょろと辺りを見回す。明らかに挙動がおかしかった。
「父さまぁ。母さまぁ。うわぁぁぁぁぁん。レミィをひとりにしないで……」
ルガトに胸倉を掴まれたままぐずりだすレミリア。その表情を見たルガトは軽蔑した眼差しを向ける。
「なんなの、このクソガキ……。幼児退行? 妹の変わり果てた姿を見たから? 自分が殺されそうになったから? いずれにしてもこの程度のストレスを加えられたくらいで精神に異常をきたすなんてね。やっぱりお前は失格だわ。自称吸血鬼を名乗ることも許されないくらいにね」
ルガトは掴んだ胸倉を持ち上げると、レミリアを投げ飛ばす。地面に磨りつけられたレミリアは声を上げて泣き続ける。
「い、いたい。いたいよ……。父さま、母さま……助けて。うわぁぁん」
「いつまでぐずついているのかしら。本当に不愉快な吸血鬼……、いえ、モルモットね。イライラしてきたから一瞬で消し飛ばしてあげる」
ルガトはレーヴァティンの力で増幅された破壊の能力を行使しようと掌をレミリアに向けると、勢いよく握りしめる。
「消滅しろ!」とルガトは威勢よく声を放つ……が。
「な、なに!?」
レミリアが破壊されることはなかった。レミリアはぐずつきながらも立ち上がろうとする。
「そんなはずはない!」
ルガトは何度も掌を握り込むが……レミリアが破壊される様子はない。
「な、なぜ? なぜ私の破壊の力が発動しない!?」
立ち上がったレミリアは何をするでもなく、泣きながら涙を袖で拭うだけである。その姿が妙に不気味に感じられたルガトは焦った様子で魔法を放つための魔力を貯め始める。
「いつまでも泣いて……。気持ちが悪いのよ!」
ルガトの放った巨大な魔法弾。しかし、それがレミリアに着弾することはなかった。魔法弾はモーンブレイドの狼と同じく、粒子となって消え去ったのである。
「そ、そんなバカな。こんなこと……あるはずがない!」
ルガトは魔法弾を無数に撃ち込むがそのどれもがレミリアに届くことはない。魔法弾は全て粒子となり消滅していった。
「な、何が起こっている? お前、一体何をしたの!?」
ルガトの問いにレミリアが答えることはない。代わりに涙を流しながら懺悔をし始める。
「ごめんなさい。ごめんなさい。とうさま、かあさま、ごめんなさい。レミィが……、レミィが弱い子だから……。フランが……。フランが……、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
レミリアの咆哮と共に、砂塵が舞い、暴風が吹き荒れた。レミリアの周囲には金色の粒子が現れる……。
「な、なんなの!?」
ルガトの驚愕の表情をよそにレミリアの体は粒子の光に包まれるのだった。