東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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真の吸血鬼

 レミリアを包んでいた光の粒子がはじけ飛んだ。隠されていたレミリアのシルエットが浮かび上がる。溢れ出る金色のオーラが風を巻き起こし、レミリアの双眼から溢れる涙は重力に逆らって上方へと吹き上がり霧散した。

 

「お前、その髪色は……!?」

 

 レミリアの髪色は大きな変貌を遂げていた。あじさいの様な水色ではなくなり、フランやルガトと同じ黄色に変化していた。先祖返りの吸血鬼と同じ色に……。

 

「お前も『本物の吸血鬼』だったということ……?」

 

 語りかけるルガトの言葉にレミリアは応えない。ただ、涙を流しながら睨みつけるだけだった。レミリアの紅い瞳はさらに鮮やかに燃え上がる。

 

「がああああああああああぁあああああああああああ!!」

 

 レミリアはルガトに向かって咆哮する。声は衝撃波となり、ルガトに襲いかかった。

 

「う、あ!?」

 

 ルガトの体は中庭の壁を破壊しながら外へと放り出された。

 

「く!? こ、声だけでこの破壊力……!?」

「ううう……!! があああああるううううううう!!!!」

 

 レミリアの眼からは涙が消え、その視線はルガトだけを見据えていた。そこに理性は感じられない。野生動物が自分の縄張りに入って来た敵を威嚇するようにレミリアは唸り声を上げる。

 

「去れ。さもなければ殺す」と、レミリアだった吸血鬼は言おうとしているのかもしれない。

 

「何よ、その眼は……。私を殺すつもり? 自分の力も制御できない不完全な吸血鬼のくせに! ……殺す!」

 

 ルガトはレミリアを粉砕しようと殴りかかる……が。

 

「きゃああああああああああああああああ!?」

 

 殴りかかったルガトの右拳がレミリアに当たる寸前、粒子となって分解される。痛みと驚きでルガトは飛び退く。

 

「ぐううううう!? ……よくも、よくも私の腕を消し飛ばしたわね……!? 許さない!」

 

 ルガトはフランから奪っていたレーヴァティンに魔力を込めた。込められた魔力は剣状のオーラに姿を変え、光を放つ。

 

「直接攻撃するのは危険なようね。この剣であなたを八つ裂きにしてあげる。妹のようにね!」

「う、うううううううがああああああああああああああああ!!!!」

 

 レミリアの咆哮には更なる怒りが込められたように感じられた。

 

「あは! まだ少しは理性が残っているみたいね。この杖はあなたのお父様がフランちゃんに託したもの。分解するわけにはいかないわよねぇ? ……これでお前を串刺しにしてやる!」

 

 ルガトは光の剣を振りかざしレミリアに斬りかかる! だが、レミリアにその刃は届かない。

 

「く!? なぜ!? なぜお前に刃が届かない!?」

 

 ルガトが眼を凝らす。レミリアの表皮を守るように金色のオーラが張られていた。

 

「ま、まさか。そのオーラが受け止めているの!? 私の剣を受け止めるなんて……どれほどの密度が……!?」

 

 驚愕するルガトの隙を突き、レミリアがレーヴァティンを掴む。ルガトはレーヴァティンをレミリアの手から剥がそうと上下左右に力を込めるが、ビクともしない。

 

「な、なんて力……!?」

「ううううううらああああああああああ!!!!」

 

 レミリアはレーヴァティンを手放さないルガトの胸目掛けて拳を叩き込む! ルガトは胸に風穴を開けられながら跪く。

 

「こ、この私が……お母様に認められた『本物の吸血鬼』の私が手も足もだせない……? ま、まさかお前が……? ……そんなこと私は認めない。お前みたいな精神の脆弱な奴がお母様の求める吸血鬼であるはずが……ない!」

 

 ルガトは口から鮮血を垂らしながら、バーサーカーと化したレミリアに掌を向ける。

 

「喰らえ! 私の全力の破壊を……!」

 

 だが、当然のごとく、レミリアにルガトの破壊の力は打ち消されてしまう。

 

「あっはは! なんてことなの……。私の破壊の力が毛ほども伝わらないなんて……」

「がるああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 レミリアは次は自分の番だと言わんばかりに雄叫びを上げた。レミリアの周囲に球状の紅いオーラが展開される。

 

「あはははは! すごいすごい! 破壊の力をここまで可視化させることができるなんて……。私でも破壊の力を可視化させることなんてできないのに!」

 

 レミリアは発現させた紅いオーラを自身の手に集中させ、握り込む。

 

「……もしかしたらお前が、お母様の求めた『真の吸血鬼』なのかも……。もっとも、もう私にはそれを確認する生は与えられないのでしょうけど」

 

 ルガトは諦めの言葉を口にする。圧倒的な破壊のオーラを前に戦意を喪失していた。吸血鬼の本能がルガトの体を震え上がらせる。

 

「フフフフ。イヤになるわね。叶うわけがないと本能が危険信号を出すこの感覚は……。でもこれでいいのよ。吸血鬼は全生物の頂点にたつ者。さあ、私を殺しなさい。吸血鬼は一人でいい。最強の存在は……頂点は一つであるべき。他者の生を奪える者こそ……、他者の運命を操れるものこそ、最強に相応しい。今日で私の最強はおしまい。お前に明け渡してあげるわ。運命を操る者の称号を」

 

 レミリアはその手に収めた紅いオーラをルガトに向けて解き放つ。ルガトはオーラに飲み込まれ、粒子となり分解され、破壊された。肉片一片残さず、完全に破壊されたのである。

 

 ルガトが消え去り、勝利を確信した『真の吸血鬼』、レミリア・スカーレットは咆哮を出しながら周囲の森羅万象を破壊し尽くすのだった。


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