「咲夜! フランを……フランを探して! あの子レミィの爆発に巻き込まれて……!」
落ち着きを取り戻したかに見えたパチュリーだったが、フランのことを思い出し再び狼狽の色を隠せなくなる。
「大丈夫ですよ、パチュリー様。妹様なら既にここに……」
右腕でパチュリーを抱える咲夜は左腕で抱えている者を見せる。そこにはフランがいた。頭部も腕も足も……、全てが再生されたフランが。パチュリーはふうと安堵のため息をつき、自分を恥じる。
「まったく、こんなに近くにいたのが眼に入らないなんて……。私としたことがかなり冷静さを失っていたみたいね」
「仕方がないことです。目の前でフランお嬢様が消えれば私だって発狂します。……本当はレミリアお嬢様が起こした爆発の際にパチュリー様もお助けしたかったのですが……妹様を助けるので精一杯でした。お許しください」
「何を言ってるのよ。あの状況で先に助けるべきはフランで間違いないわ。ギリギリの状況でも優先順位を間違えない。さすがは紅魔館の誇るメイド長ね」
「お褒めに預かり光栄です」
「……咲夜、あなたまた能力を使ったわね?」
回復したフランの姿を再度確認したパチュリーが咲夜に問いかける。
「……妹様をあのようなお姿のままで放置するのは忍びありませんでしたので……」
「時間を『早めた』のね? ……前にも言ったけど、その能力を酷使するのはやめなさい。あなたの寿命を短くするだけよ。レミィは何も気にしないであなたにその能力を使わせ続けているけど……」
「ご心配なく……。あの日から私の身も心もお嬢様のものなのです。この程度なんの負担でもありません」
「……咲夜……」
パチュリーは感慨深そうな憐れむような視線を咲夜に向けていた。
「……パチュリー様、妹様を連れて安全なところに逃げて下さい。レミリアお嬢様は私がなんとかします。……このままではお嬢様は自身の力で自分を崩壊させかねませんから」
「……迷惑をかけるわね咲夜。『私も一緒に……!』と言いたいところだけど、それはあなたの足手まといになるだけかしら?」
「申し訳ありません、パチュリー様。恐れながら……」
「気を使う必要はないわ。……頼んだわよ咲夜。気を付けて。死ぬことは許さないわよ? あなたも私の『友人』なのだから……」
「……ありがとうございます」と咲夜は柔らかな表情で微笑む。
パチュリーは咲夜からフランを受け取ると、レミリアから遠ざかるように飛んで行った。
レミリアは咲夜が浮く空の直下で小さく唸り声を上げながら周囲をくるくると見回していた。捉えたと思ったパチュリーが一瞬で姿を消したからである。パチュリーがレミリアの眼前から忽然と姿を消しされた理由。それは十六夜咲夜の能力にあった。彼女は『時間を操る程度の能力』を持っているのである。
レミリアの歯牙からパチュリーを守った際も時間を止めて救い出したのだ。レミリアから見れば突然眼前からパチュリーが消え去ったように見えたはずである。また、フランが一瞬で頭部と手足を回復したのも咲夜が『フランの時間』を進めたからだ。
一見すればなんでもありに感じる能力だが、無敵というわけではない。基本的には時間を止めることと時間を進めることしかできない。一応条件付きではあるが時間を戻すこともできる。しかし、壊れた物を元に戻す、死んだ人間を生き返らせるといったことは出来ない。
咲夜はレミリアの近くに降り立つと声をかけた。
「お嬢様、ただいま帰りました。申し訳ございませんが、少々手荒な真似をさせていただきます」
咲夜は太腿に装備したホルスターからナイフを取り出し指に挟むと戦闘に備えるのであった。