「ひ、必要……ありません。私だけの力で乗り切って見せます……!」
妖夢は脳内に響く声に対して返答する。
「そんなこと言っても限界が近いじゃないですか。私に向かって強がりを言うことは無意味ですよ?」
「そんなことはわかっています……! あなたを制して初めて私は一人前になれるんです。手出しは無用です……!」
「意地張っちゃって」
そう言い残して少女の声は途切れる。
「う……が……あああああああ!!」
メアリーは妖夢を絡めた左腕をカウボーイの投げ縄のように振り回すと遠心力を利用して妖夢の体を桜の木に叩きつけた。
「ぐはっ!?」という息とともに妖夢は鮮血を口から吐き出す。
メアリーの猛攻は止まらない。何度も何度も容赦なく、妖夢の体をそこら中の木や岩に叩きつける。そして、とどめとばかりに地面に叩きつけるように投げつけた。
「う、うう……」と仰向けでうめき声を上げる妖夢。メアリーは妖夢がまだ死んでいないことに気付くと近づき、筋肉で膨張した右腕で妖夢の首を絞めながら持ち上げた。
「あ、ぐ、は、あああ……」
妖夢は窒息の苦しみから逃れるため、メアリーの右腕を首から剥がそうともがく。しかし、強力な握力で締め付けるメアリーの腕を剥がす体力は妖夢に残っていなかった。力尽きた妖夢は全身をだらんと伸ばす。意識を失い、右腕に持っていた剣も手放してしまった。
「こ……れ……で終わ……り」
メアリーは確実な勝利を得るため、妖夢の首の骨を折らんと力を込める。その時だった。
「あーあ。無理しちゃって。早く私に代わっていればこんな無様な姿を晒すこともなかったんですよ?」
力尽きたはずの妖夢の口が動き、言葉を紡ぐ。次の瞬間、妖夢は腰に付けていた短剣を抜き、メアリーの右腕を斬る。短剣の刀身はメアリーの右腕をすり抜けるように貫通する。メアリーの右腕に傷が付くことはない。しかし、なぜか右腕の力が抜け、妖夢は脱出に成功する。メアリーは突然力が入らなくなった右腕に視線を向けた。何が起こったのかわからないといった困惑した表情を浮かべながら。
「さて、初めましてですね。継ぎ接ぎだらけの怪物さん。半人の
いつの間にか、妖夢の周囲に浮いていたはずの白い人魂が消えていた。妖夢の半霊部分である人魂が……。
「今、私の心は久しぶりに肉体を操る高揚感で満ちています。暴れたくて仕方ないので手加減はできませんよ。私はあの子のように甘くもなければ間抜けでもありません。覚悟することですね」
肉体に憑依した『半霊の妖夢』はにやりと口角を上げるとメアリーに向かって短剣を構えるのだった。