「あ……あ、あ? う…ごか……ない……。わ……たしの……腕……うご……かな……い!」
メアリーは自身の右腕を動かそうと試みるが、まったく動かすことができないでいた。
「『わたしの腕』? その右腕は最初から『あなたのもの』ではなかったでしょう?」
半霊妖夢はにやりと口角を上げると、半人妖夢が手放してしまった長剣を拾いあげると鞘に戻しながら呟く。
「『楼観剣』の使用に固執するから負けてしまったんですよ。『半人の
半霊妖夢は自身が抜いた短剣の刀身を眺める。
「最も、私より観察眼のないあの子では、白楼剣を使用するという選択には行き着かなかったでしょうけど。……仮に行き着いていたとしても地獄の閻魔様に白楼剣はむやみに使用するなと忠告されているから使わないか。あの子は変に真面目ですからね」
「わ…たし…の腕……に何を……した……?」
「だから『あなたの腕』ではないでしょう? ……自覚がないのですか? まあいいです。私にできることは斬ることだけですから」
半霊妖夢はメアリーに斬りかかる。
「う…あ!」
メアリーは超高速移動で妖夢の攻撃をかわした。
「やっぱり速いですね。あの子が苦戦するだけのことはあります。でも、逃げてばかりじゃあ私には勝てないですよ」
妖夢は白楼剣を鞘に戻すと居合の構えを見せる。メアリーに向ける笑みからは余裕が滲み出ていた。それはメアリーから見れば挑発行為にしか感じられない。
「おや、私の態度が気に食わないみたいですね。バカにされていることがわかるくらいの知性は持っているんですね。それではひとつ勝負と行きましょう。高速移動を生み出すその足が自慢なのでしょう? 私の居合い抜きとあなたの体当たり、どちらが早いか比べようじゃありませんか!」
妖夢はさらに顔を笑みで歪め、メアリーを挑発する。メアリーには挑発に乗らないという選択肢を持つほどの知性がなかった。妖夢をにらみつけると、超高速移動を開始する。妖夢は冷静にメアリーの軌道を読み、彼女の足を狙って刀を抜く。
彼女たちの体が交差する。一時の間をおいて倒れたのは……メアリーだった。メアリーは自身の右足を抑える。
「う……あ。足……切れて……ない。だけ……ど、うごか……ない」
「あなたの足に『宿っていた魂』はこの白楼剣で斬らせてもらいましたよ。この剣は肉体を斬ることはありません。魂だけを斬るのです。あなたの足にいた魂は今頃天界に逝っているでしょう」
「て、て……んか……い?」
「ええ。成仏した魂が向かう場所ですよ。わたしの短剣『白楼剣』には魂を成仏させる力が宿っているのです。それ故、閻魔(ヤマザナドゥ)の四季映姫様にむやみやたらに使うなと釘を刺されているのですよ。半人妖夢(あの子)はくそ真面目ですからね。釘を刺されて以来一度も使ってないはずです。……それにしても、あなたの体は本当に奇怪ですね。確かめるまでは信じられませんでしたよ。あなたの五体にはそれぞれ魂が定着している。それも強力な力で。どうやら元々の持ち主の魂を定着させていたようですね」
妖夢の解説どおり、メアリーの五体には魂が憑依させられていた。腕には腕の持ち主の魂を。足には足の持ち主の魂をといった具合である。もっとも、その魂たちの自我は消されていたようだ。唯一自我を持っていた頭部の魂も健全な状態とは言い難い。
「う……が……ああああ!!」
メアリーはまだ動く左腕を使い妖夢を締め付けようと絡めた。
「無駄です」
「うあ……!?」
妖夢は左腕に憑依していた魂も斬る。定着していた魂が抜けた左腕はだらんと垂れ下がり動かなくなった。
「あ……あ……あ……」
分が悪いと見たメアリーは片足だけで逃げ出そうとする。しかし、妖夢はそれを制止する。
「一体どこに行くつもりです?」
言うが早いか、妖夢はメアリーに残る片足を斬り動かなくさせる。
「う……ああ……」
「さて、頭部の魂も斬ってやりたいところですが、幽々子様に報告しないといけません。情報も聞きださなければなりませんから。とどめは刺さないでおいてあげましょう」
「う……あ……あ。終……わり……」
「いま何と言いました? 終わり……? …………!」
妖夢はメアリーの様子がおかしいことに気付く。大量の魔力がメアリーの胴体部に集まっていた。
「くっ!? 厄介なことをやってくれますね……!」
妖夢は周囲で倒れていた騒霊達(プリズムリバー三姉妹)を拾い集めると、一目散にメアリーの元から逃げ出した。大量の魔力が集められたメアリーの体が爆発する。巨大な爆発が妖夢たちに襲い掛かるが、メアリーの自爆を看破していた妖夢にダメージが入ることはなかった。
「……まさか自爆するなんてね……。ここまで死体と魂を弄ぶ者がいるとは……半霊の私としては許せませんね。……もうあの子が目覚めようとしています。もう少しこの体を使わせてくれてもいいと思いますが……仕方ありませんね」
半霊妖夢はプリズムリバーたちを地面に寝かせると、目を瞑る。半霊妖夢は立ったまま意識を失うのだった。