「痛っ……!? ……どうなったんですか?」
半霊妖夢が意識を失うと同時に目を覚ました半人妖夢は折られた左腕を押さえながら周囲を確認する。目の前には大きな爆発の跡が残っている。草木の焼けるにおいが立ち込め、爆発からの時間はそう経っていないと推測できた。自分の近くにプリズムリバー三姉妹が倒れているのは見えるが、あの継ぎ接ぎだらけの妖怪は消えていた。妖夢は少しずつ半霊妖夢の記憶を自分へと写していく。
「
妖夢は半霊との記憶共有を済ませると、倒れているプリズムリバー三姉妹たちを揺り起こす。
「あいたたたた……。ここは? ……そうだ。私たち、変な妖怪に襲われて殴られて……。姉さん、リリカ大丈夫!?」
「うーん……。大丈夫だよ。メルラン姉さん」
「わたしも大丈夫……。ってあれ? 妖夢さん!?」
「どうやら3人とも無事なようですね」
妖夢はふうと溜息をつく。
「妖夢さん、あの化物は……?」とプリズムリバー三姉妹の長女ルナサが問いかける。
「……自ら爆発してしまいました」
「自殺ってことですか!? なんでそんなことを……?」
「……わかりません。追い詰めてはいましたから、それが原因だったのかも……」
「追い詰めたって……妖夢さんがですか!?」
「……私と言えば私ですし、私じゃないと言えば私じゃないです」
「それってどういう……」
「面倒なので説明はしませんよ? ……悪いですけど私と一緒に白玉楼まで来てください。幽々子様に報告しなくては……。あなた方の持っている情報ももらわないと……」
妖夢は三姉妹を白玉楼に向かうよう促すと自身も幽々子の元へ足を進めるのだった。
――ところ変わって、ここは『迷いの竹林』の入り口。霊夢が治療を受ける永遠亭はこの竹林の中にあるのだが……。そこで激しい戦闘が繰り広げられていた。
「うっぐああああああああ!!!?」
悲鳴を上げているのは迷いの竹林の案内人、藤原妹紅(ふじわらのもこう)である。彼女の腕が褐色の肌を持つ銀髪魔女の魔法によって吹き飛んでしまっていた。
「くそがぁああ!」
妹紅が気合を入れると、彼女の吹き飛んだ腕に炎が纏わりつく。炎が消えたとき、彼女の腕は綺麗に再生されていた。その様子を見ていた魔女は興奮したように叫ぶ。
「すっごいじゃん。不老不死なんてのはたいして珍しくないけど、こんなに超高い再生力、アタシ初めて。アンタの不老不死はどんな仕組みなの?」
魔女の言う通り、藤原妹紅は不老不死だ。彼女はかつて『蓬莱の薬』を口にした。それ以来老いることも死ぬこともできなくなってしまったのである。どんな仕組みなのかと問われても、妹紅は答えることなどできない。彼女にその類の知識はないからである。
「お前に教えると思うのか?」
強がるように妹紅は返す。
「ま、いいわ。教える気がないなら解剖するだけだし」
「言ってろ! これでも喰らえ!」
妹紅は手のひらから炎を生み出すと魔女に向かって放つ。
「あっつーい! でもそんなんじゃアタシは殺せないんですけど?」
「くっ!?」
妹紅の炎は魔女に直撃した。大やけどを負ったにも関わらず魔女は平然としている。気付いたときには魔女のやけどの傷は治っていた。
「なんて回復力だ!?」
「それじゃ、次は私の番じゃん?」
魔女が杖を妹紅に向けると妹紅の足元に魔法陣が広がる。
「ドカンとふっとべ!」
妹紅を包み込むように爆炎が発生する。妹紅の体は肉片残さず灰と化した。
「あ、しまった! これじゃあ解剖できないじゃん。ま、いっか。私のお目当てはこの竹林のどこかにいる紅白のシャーマンだし。お母さまにやられてもうすぐ死ぬだろうからアタシのコレクションにしなきゃ。優秀なシャーマンみたいだし! それにあのシャーマンの中には珍しいものも入ってるみたいじゃん?」
魔女の独り言をかき消すように炎が舞い上がる。
「え? なになに!?」
「まだ終わってないんだよ!」
魔女の目の前に現れたのは不死鳥のように炎の翼を背中に生やした藤原妹紅だった。
「まじ!? 体を完全に失ったのに復活した!? なんでなんで!?」
「だまれ!」
妹紅は炎の翼を操り、魔女にぶつけようと試みる。
「さっきよりあっつーい!? でもやっぱりそんなんじゃアタシは殺せないんですけど?」
妹紅の攻撃を受けた魔女だったが、やはりダメージを受けたそばから回復する。
「き、貴様もしかして私と同じ……?」
「今頃気付いたの? 遅すぎだし」
「お前も不老不死なのか!?」
「そうだよ。しかもアンタよりももっとパーフェクトに不老不死なんですけど? ……それにしてもアンタもしかして、不老不死の根源が肉体じゃなくて魂なの? 激レアじゃん!」
「激レアだと?」
「そうそう。激レア! ちょっと解剖したらそれで終わりにしようかと思ったけど……アンタの魂、アタシのコレクションにしたげる!」
「ふざけたことを……!」
妹紅は再び炎の翼を魔女に向ける。しかし……。
「無駄なんですけど?」
「なに? ぐっ!? あああああああああ!?」
魔女は再び魔法を放つ。妹紅に巨大な爆炎が襲い掛かり、体が灰塵と化す。
「くっ!? ふざけやがって……!」
炎が発生し、その内部から復活した妹紅が言葉をこぼす。
「灰から復活するなんて本当にフェニックスみたいじゃん? でもむだむだ」
「う、ぐあああああああああああああああ!?」
魔女は三度爆発魔法を放つ。
「アンタの魂が疲れ切って体の再生をあきらめるまで燃やし尽くしてあげる。弱ったところでこのフラスコに魂を封じ込めてやるわ。あはは。これって最近流行りのモンスター捕獲ゲームみたいじゃん?」
魔女はフラスコを手に持ちながら嬉しそうに笑う。妹紅の体が復活するたびに高火力の魔法を放った。妹紅に魔女の攻撃を防ぐ手立てはなく、復活してはただ攻撃を受けるを繰り返す。数十回繰り返したころだろうか。魔女が口を開く。
「うふふ。復活のスピードが少しずつ遅くなって来たんですけど! そろそろ捕まえちゃおっかな? ……あん?」
魔女の妹紅への攻撃が突然やむ。魔女は視線を上空に向けていた。その表情には苛立ちが垣間見える。
「……アタシのフランケンシュタインが……メアリーちゃんが自爆した……?」
「はぁ。はぁ。はぁ……」
魔女が独り言を喋る中、なんとか復活した妹紅はうつぶせに倒れ込む。
「……超むかつくんですけど。アタシのコレクションを壊した奴がいるんですけど!」
そういうと、魔女はどこからか箒を取り出すとまたがって空に向かおうとする。
「くっ! 貴様どこに行くつもりだ!?」
「アタシのコレクションを壊した奴を殺しにいくんだよ……! アタシが一番むかつくやつはコレクションに手を出したやつだから! アンタ運がよかったじゃん? 捕まえるのはまた今度にしたげる」
「……お前こそ運が良かったな。殺すのは今度にしてやるよ……!」
「そんなにボロボロで強がられても哀れなだけなんですけど?」
あざ笑う魔女に妹紅は一呼吸してから問いかけた。
「……お前ら一体何者だ?」
「うーん、アタシたちの組織のこと? アタシたちは組織のことをルークスって呼んでる。なんでそんな名前にしたのかは知らないけど」
「何が目的で動いている……?」
「目的ねぇ。人によるんじゃん? アタシたちはお母さまの力を借りて好き勝手やってるだけなんですけど? その代わりにお母さまの目的にも手を貸すって感じ?」
「お母さまとは貴様らの親玉か……! そいつの目的はなんだ!?」
「さあ? 興味ないし」と魔女は銀髪を靡かせてその場を後にする。魔女が上空へと消えていくのを眼で追っていた妹紅だったが力尽きて気絶してしまった。それは妹紅にとって不老不死になってから初めて経験した気絶だった。
上空へと飛びあがった魔女はメアリーを壊した者たちがいる方を睨みつけ叫んだ。
「このアタシ、プロメテウスのコレクションを壊したこと、後悔させてやるんですけど……!?」
褐色銀髪の魔女『プロメテウス』は冥界に向かって一直線に突き進むのだった。