白玉楼に戻った魂魄妖夢は主である西行寺幽々子に事の顛末を報告していた。
「そう。継ぎ接ぎの妖怪、ね……」
「はい。これまで私が対峙した侵入者の中で最も身体能力に優れていました。ただ、知性の方はそこまででした」
「知性はどの程度だったの?」
「はっきりとはわかりませんが、幼児程度の知能しかなかったと思われます」
「……違和感を覚えるわね。その程度の知能しか持たない者が追い詰められたからって自爆なんてするかしら? ……その化物を操っている者がいると考えるのが妥当ね」
「ええ、私もそう思います。あの化物に単独で冥界に辿り着く能力があるとは考えられませんでした。ましてや幽々子様に気付かれずに侵入するなんて不可能かと」
妖夢の報告に幽々子が耳を傾けていると、横槍が入る。
「ねぇ。私たちはいつまでここにいたらいいんです? 今日はこれから別のコンサートにも行かないといけないんですが……」
プリズムリバー三姉妹の長女ルナサが妖夢と幽々子に抗議する。
「駄目です。あなたたちからはあのフランケンシュタインと名乗っていた妖怪の情報をきかなくてはならないのですから!」と妖夢が半ば強引に引き留める。
「そんなこと言ってもさっきも説明したように私たちはなにも知らないんですって! いきなり後ろから襲われただけなんですから!」
「いえ、その倒される瞬間に、何か見たはずです」
「あんな一瞬のことなんて覚えてないよ!」
「無理やりにでも思い出してください。何というかこう、あるでしょ? 殴られた感触とか匂いとか。今は少しでも情報が欲しいですからね」
「そんな無茶苦茶な……」
呆れるルナサに幽々子も話しかける。
「心配しなくてもコンサートは中止になると思うわよ?」
「……どういうことです?」
「多分、幻想郷はコンサートどころじゃなくなるということよ」
「コンサートどころじゃなくなる? 一体何が起こるっていうんですか?」
「さあ、それは私にもわからないわ。いやな予感がするってだけよ?」
「なんじゃそりゃ……」
幽々子の曖昧な説明にルナサは口をあんぐりさせる。
「……なにかくる!」
突然幽々子は口を開くと、幻想郷につながる入り口の方向に顔を向ける。
「また予感ですか?」とあきれたような口を聞くルナサ。
「違う。予感なんかじゃないわ。間違いなく侵入者が入って来ている……! それもすごいスピードでこちらに飛んできているわ。しかもこの感じ……、私の嫌いなタイプの気配だわ……!」
幽々子がしゃべり終わると同時に気配の主が箒に乗って現れる。黒づくめのいかにも魔法使いという姿で……。
「はぁあ。やっと見つけたんですけど?」
気配の主はため息を吐きながら言葉をこぼす。褐色の肌に銀髪を持つその者は箒の先端に気絶している何者かを乗せていた。いや、物のように扱っている様子を見れば載せていたという方が適切だろう。
「その箒に乗せられている妖怪は……レティ!?」と妖夢が問う。
「あん? こいつアンタたちのお仲間だった感じ? アタシの前にふらりと現れてジャマだったからぶっ飛ばしたんですけど? 綺麗な死体になりそうだから持って帰ろうと思って運んでんの」
「死体? 持って帰る? な、なにを言っているんですかあなたは?」
たまらず妖夢は褐色銀髪に尋ねるが無視される。
「アンタたちの中のだれかでしょ? アタシのメアリーちゃんを殺したの……! 超ムカつくんですけど!」
褐色銀髪の魔女は幽々子たちを値踏みするような目線で嘗め回すように見渡すと幽々子に照準を合わせた。
「どうやらアンタみたいじゃん? この空間のボスは! アンタ何者? アンタがアタシのメアリーちゃんを殺したの?」
「……人のことを聞くときはまず自分が名乗るものじゃなくて?」と返す幽々子。
「はぁあ。メンドくさい女なんですけど! アタシの名はプロメテウス。これで満足なわけ?」
プロメテウスは心底気だるそうに幽々子たちに名を告げるのだった。