幽々子はほうきに乗って宙に浮かんでいるプロメテウスに向かって問いかける。
「プロメテウス? 聞かない名前ね。あなたが幻想郷に来た侵入者なのかしら?」
「正確には『アタシたち』じゃん? そんなことよりもこっちは名乗ったんだからそっちも名前教えなきゃフェアじゃないんですけど?」
幽々子の問いに高圧的な様子で質問し返すプロメテウスに幽々子は冷静な様子で回答する。
「私の名前は西行寺幽々子。この冥界の管理者を務めているわ」
「冥界? ハーデスのこと? 結界で囲まれたコミュニティの隣にそんなものがあるなんてね。この地域の死生観は独特なんですけど。で、メアリーちゃんを殺したのは誰なわけ?」
「メアリーというのはあのフランケンシュタインとかいう妖怪の名前ですね。誰も殺してなんかいませんよ。あの妖怪が勝手に自爆したんですから!」
妖夢がプロメテウスのだれが殺したのかという問いに反抗するように答える。
「ふーん。メアリーちゃんが自爆したことを知ってるってことはアンタが殺したってわけ?」
「殺してなんかいませんと言っているでしょう!?」
「……ピーピーうるさいんですけど?」
プロメテウスが殺気を妖夢に送る。あまりの強い殺気に妖夢はついたじろいでしまう。
「メアリーちゃんにはやられそうになったら自爆するようプログラミングしてたんだよね。アンタが殺したも同然じゃん? アタシのコレクションを壊した責任を取ってもらわなきゃいけないわけ!」
「コレクションですって……?」
「あの子はアタシが手塩にかけて造ったモンスターなわけ。闘ったならメアリーちゃんの特別さが分かったでしょ? あ、もしかしてそんなことにも気付かないくらい腕がない感じ? もしそうだったらすごくショックなんですけど! メアリーちゃんの価値も解らないようなやつに壊されたなんて!」
「あの妖怪の特別さ……? それってもしかして……」
「お? 解ってる感じ? ちょっと説明してみてよ!」
プロメテウスが妖夢に回答を求める。妖夢は嫌悪感を露わにしながら言い放った。
「あの妖怪は継ぎ接ぎだらけでした。おそらく複数の人間あるいは妖怪の体を繋ぎ合わせて一体の化物にしている」
「うんうん。それで?」
プロメテウスがどこか得意げな様子で妖夢の答えを待っている姿を見てさらに妖夢は嫌悪感を強くさせる。
「……ただ単に死体を繋ぎ合わせただけではありませんでした。両腕、両足そして胴体にそれぞれ魂が植え付けられていました。非人道的行為とはこのことですよ……!」
「なーんだ。ちゃんとそこまで見極めることができる奴に壊されてたんだ。よかったぁ。アタシの腕が鈍ったのかと思ったんですけど!」
「不愉快な人ですね。あんな風に亡骸と魂を弄ぶ人間は許せません……!」
「あれあれ? なんか怒っちゃってる? 下等生物を使ってちょっと遊んだだけなんですけど?」
「……どこまでも道を外れている人ですね……。なんであんな行為をするのか理解に苦しみます」
「なんでかって? あれはすごく合理的なわけ」
「合理的、ですって?」
「そそ。体つなぎ合わせて一つの魂で制御するだけなら簡単じゃん? でもそれだとそれぞれの死体が最高のパフォーマンスを出せないわけ。死体と魂が一致しないと力を発揮してくれないのよ。で、考えた結果、腕、足、胴体それぞれに元の持ち主の魂を憑依させたわけ。でもそれだけだと、腕、足がそれぞれに勝手に動いて統率が取れないのよ。以前失敗したフランケンシュタインの動きったらキモイってもんじゃなかったわけ。アンタにも見せてやりたいくらいなんですけど」
妖夢はプロメテウスの言動に『引く』。明らかに自分の価値観とは違う思考を持つ褐色銀髪の魔女を妖夢は生理的に受け付けることができないでいた。そんな妖夢の様子になど目もくれず、プロメテウスは話し続ける。
「それでちょちょいと魂に細工して自我を失うようにしたってわけ。もちろん頭部以外ね。頭部の魂は自我を持たせて他の魂を制御するようにさせてたんだけど、やっぱり複数の魂を操るのは難しいらしくて知性が5歳児程度にしかならなかったんだよね。元々頭部に充てた子は頭脳に秀でた子だったんだけど、上手くいかなかったんだぁ」
「不快なことをぺらぺらと……」
「お気に召さなかった感じ? ま、アンタたちがどう思おうとどうでもいいんですけど! とにかく、アタシのコレクションを壊したアンタたちには責任を取ってもらわなくちゃいけないわけ! 知ってる? メアリーちゃんは部品のそれぞれが最高級だったわけ! 最高のパワーを持つモンスターの右腕と長く伸びる不思議な妖術を使う人間の左腕、それに人間界で一番速い足を持つやつとアタシの国で一番早い足を持つ妖怪の足を使ってたんですけど! それに優秀な頭脳を持っていた魔法使いの頭をくっ付けたってわけ。あ、もちろん全部女の体じゃん? だってそっちの方が美しいでしょ?」
「そんなこと知るわけがないでしょう……! 責任を取る道理もありません!」
「ふん。アンタたちが責任を取るつもりがなくても無理やり奪ってやるんですけど? このレティとかいう妖怪とその辺にいる3匹のポルターガイストはレアリティ低いからあんまり興味ないけど、そこのピンク髪の亡霊と半分人と半分霊でできたアンタはレアリティ高そうだからね。私のコレクションにしたげる!」
「……勝手なことを。私も幽々子様もお前のおもちゃにされるつもりはありません。覚悟することですね!」
妖夢は折れた左腕をだらんとぶら下げたまま、右手で楼観剣を抜き、プロメテウスに切っ先を向けるのだった。