「な、なにあの骸骨軍団は!? まずいですよね!?」とルナサが叫ぶ。
「あなたたち騒霊はレティを連れて逃げなさい」
幽々子はセンスで口元を隠しながらルナサたちに指示する。ルナサたちは幽々子の言う通り、冥界から逃亡を試みる。
「……あら、あの子たちを簡単に逃がしてくれるのね?」
「もうあんなローレアリティに興味はないわけ。アタシが欲しいのはアンタたちだけなんですけど?」とプロメテウスは幽々子の問いに答える。
「私も幽々子様もお前のものになどなりません! ……それでは行かせてもらいますよ!」
妖夢が骸骨兵士集団に突進する。妖夢の楼観剣の一振りが骸骨兵士の腕の骨を砕く。
「どうやら大したことはなさそうですね」
「腕一本壊したくらいで得意にならないでほしいんですけど?」
「なんですって!?」
「壊した骸骨ちゃんの腕をよく見て欲しいんですけど!」
妖夢は腕を壊したスケルトンソルジャーを観察する。地に落ちた骨が浮き上がり、元の腕の位置に戻るときれいに接合されてしまった。
「……修復した!?」
「どう。この子たちは自己再生ができるように調整してあるわけ。お前の体力が尽きるまで攻撃し続けるってわけ。絶望した感じ?」
「……なるほど。正攻法では勝てないというわけですか。しかし、残念でしたね。私は同じ轍を踏むほどおろかではないのです……!」
そういうと、妖夢は楼観剣を鞘に戻し、白楼剣を手にする。
「はぁ? そんな短い剣でスケルトンソルジャーたちとやるつもりなわけ? バカにしてるんですけど!」
「バカになどしていませんよ」
「……意味がわからないんですけど。お前たち、やっちゃうわけ!」
プロメテウスに指示された数体のスケルトンソルジャーが妖夢目掛けて襲い掛かる。妖夢は白楼剣を振り抜く。
「……刀身が骨にあたることなく、すり抜けた……? ……一体何をしたのかしら?」
プロメテウスが疑問に思う中、妖夢を襲っていたスケルトンたちが一斉に倒れる。
「な、なんで!? ……この子たちの魂が消えているんですけど!?」
「やはり、フランケンシュタインとやらと仕組みは同じだったようですね」
妖夢は勝ち誇った笑みを浮かべながらプロメテウスに視線を飛ばす。
「……お前、何をしたわけ?」
「何もしてないですよ。この剣で斬ってあげただけです」
妖夢はプロメテウスに見せつけるように白楼剣を掲げた。
「……お前たち、この白髪を殺すんですけど!」
また、プロメテウスは数体のスケルトンソルジャーに命令を下す。妖夢に襲い掛かる骸骨たち。しかし、先ほど襲い掛かってきた数体と同じ運命を辿ることになる。
「無駄ですよ」
「なるほど。そういうわけ」と全てを理解したと言わんばかりにプロメテウスは顎に指を当てる。
「その剣、スケルトンに憑依させた魂を無理やり成仏させてるってわけ? ……超レアアイテムじゃん! カモがネギを背負ってくるってのはまさにこのことなわけ! ……アタシのコレクションを壊したわけだし。アンタが持ってるその剣もいただくんですけど! 行け!」
プロメテウスはまた、数体のスケルトンに妖夢を襲うように命令する。
「何度やっても無駄です……! はぁあああ!」
妖夢はスケルトンソルジャーを次々と成仏させていく。
「ふーん。以外に剣の腕あるじゃん。メアリーちゃんがやられただけのことはあるんですけど。でもスケルトンソルジャーたちの方が強いんですけど!」
プロメテウスがにやりと笑う。スケルトンの一体がすでに妖夢にやられた兵士の骸骨を念動力で腕に集中させる。集められた骨は巨大なムチを形作る。
「技術で勝てないなら有無を言わせぬ大質量で攻めるだけってわけ。振り回したらどうなるかしら?」
巨大な骨のムチから逃げ続ける妖夢。
「ふーん。逃げるのも得意ってわけ? やるじゃん。でもそれなら動きを鈍らせれば良いだけなわけ」
プロメテウスの号令に従いスケルトンたちが一斉に妖夢に攻撃を仕掛ける。さすがの妖夢も多勢に無勢だった。防御せざるを得ない攻撃を受けた隙を突き、巨大なムチが妖夢を襲う。
「ああああああ!?」
ムチ攻撃を受け地面に倒れた妖夢を押しつぶすように大量のスケルトンたちがのしかかる。
「アンタたち殺したらいけないわけ。弱らせる程度に潰すんですけど! ま、最悪死んでも利用価値はあるんですけど!」
「かはっ!?」
スケルトンたちの重量をその小さな体で受け止める妖夢は耐えきれずに鮮血を口から吐き出した。
「……まだまだね。妖夢……」
妖艶な声が戦場に響き渡る。美しく上品な声だったが、そこには静かな怒りが内包されていた。声が響いた次の瞬間、全てのスケルトンたちが一斉に動きを止め、ただの骨骸になり果てる。
「な、なにが起きたわけ!?」と驚くプロメテウス。
「かわいい従者をこれ以上痛めつけられるわけにはいかないわね」
「……ピンク髪、アンタがやってくれちゃった感じ?」
「そうよ。次はあなたの番でしょうね」
幽々子はセンスで口元を隠したまま、プロメテウスを睨みつける。プロメテウスもまた幽々子を睨み返していた。彼女たちの視線はぶつかり合い、見えない火花を上げている。
「久々ね。この能力を使うのは。あなたはやり過ぎた」
幽々子は静かな口調でそう言い放つのだった。