「も、申し訳ありません、幽々子様……。手を煩わせることになってしまって……」
動かなくなった骸骨たちの山をかき分け、下敷きにされていた妖夢は出てくるとふらふらと立ち上がった。
「さがりなさい妖夢。ここからは私がやるわ」
「……承知しました」
妖夢は幽々子の戦闘宣言を聞き、巻き添えを食わないために遠く距離を取る。
「あんた、私のかわいいスケルトンたちに何をしてくれたわけ?」
プロメテウスは眉をぴくぴくと動かし、苛立ちを隠さない。
「敵に種を明かすつもりはないわ」
「ふーん、面倒な女なんですけど」
プロメテウスは新たにスケルトンを数十体召喚し幽々子に襲い掛からせる。
「無駄よ」と短く言葉を切る幽々子を中心として魔力の波動が空気を伝いスケルトンたちを飲み込んだ。新たに生まれたスケルトンもまた、一斉に動かなくなりただの骸骨になり果てる。
「一体どんな能力なわけ?」
スケルトンに幽々子を襲わせている間にプロメテウスは幽々子との距離を十二分に取っていた。
「賢い選択じゃないかしら。これ以上闘うのなら、もう私はあなたを生かすつもりはない。そのまま冥界の外に帰りなさい。そこから私に近づくなら容赦しないわ」
「へぇ。かなり自分の力に自信がある感じ? とってもムカつくんですけど! その能力を看破して屈辱を与えてからコレクションにしたげる。さらにスケルトンをお見舞いしてあげるわけ!」
「無駄だと言っているでしょう?」
さらに大量に出現したスケルトンに周囲360度を囲まれた幽々子だが、一瞬でスケルトンたちを動かなくさせる。
「まだまだ行くわけ!」
「芸がないわね。何度やっても同じことよ?」
プロメテウスの召喚させるスケルトンたちはやはり、幽々子を中心に発生する見えない力で動かなくなっていく。何度も何度もプロメテウスはスケルトンを幽々子に襲い掛からせるが、結果は同じであった。
「あなたとんだ無能上司のようね。無駄死にさせられた骸骨たちがかわいそうよ? 私の力の恐ろしさはわかったでしょう? おとなしく冥界から去りなさい」
幽々子は閉じた扇子をプロメテウスに向けると、微笑みを浮かべていた顔を硬直させ、冷たい視線で見下した。その姿を見たプロメテウスははぁと溜息をつく。
「勝った気になってる感じ? 無能なのはそっちなんですけど。アタシがなんの意図もなくスケルトンちゃんたちをお前に襲わせてたと思ってるわけ?」
「……なんですって?」
「はぁ、退屈。アンタの能力って『死』を与えるって感じ? ま、スケルトンたちはもう死んじゃってるんですけど。言い換えれば肉体から魂を引きはがすことに長けてる能力ってわけ」
「あら、気づいてたのね」
「アタシをバカにし過ぎなんですけど? あれだけスケルトンから魂が出ていけばだれでも気付くわけ。後で抜け出た魂を回収しなくちゃならなくなったんですけど。マジ面倒なわけ」
「……そのとおりよ。私の能力は『死を操る程度の能力』。生ける者を死に追いやるシンプルな力よ。勝ち目がないのは理解できたでしょう? ならば……」
「この冥界から去りなさいってわけ?」
プロメテウスは幽々子の放とうとした言葉を先回りして口にする。
「その必要はないわけ。なぜなら、アタシは絶対アンタに勝てるんですけど。証明したげる」
プロメテウスは魔法で宙に浮き、杖を構えると幽々子に向かって高速移動を開始する。
「私に直進してきた!? ……飛んで火にいる夏の虫とはこのことね。成仏なさい」
幽々子は『死を操る程度の能力』を発動する。周囲に魔力の波動が伝わり始める。しかし、その瞬間、直進していたはずのプロメテウスの姿が忽然と消えた。
「くっ!? 転移術の類ね!?」
幽々子はすぐに能力の範囲外にいるプロメテウスに気付く。プロメテウスは杖の先端から超高速で小さな何かを射出する。幽々子は避ける間もなく、小さな何かに腕を撃ち抜かれた。
「かはっ……!? 亡霊である私の腕を撃ち抜いた!? これは……魂!?」
「ご名答なわけ。アンタも運が悪いんですけど。アタシはネクロマンサー。霊と死体の専門家なわけ。……どうかしら? アタシの対霊用武器である『霊弾』は?」