東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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歪な魂

「……あんた何か雰囲気変わった感じ?」

 

 半霊が意識を乗っ取った妖夢を見て、自身の腕に回復魔法をかけ終わったプロメテウスは問いかける。

 

「ええ。今の私は先ほどまでの『妖夢』ではありませんからね……。幽々子様を返してもらいます!」

 

妖夢は楼観剣の切っ先をプロメテウスに向けた。表情には自信が窺える。

 

「……さっきまであんたの周りに浮いてた霊魂が消えている。今は霊魂の方が肉体を操っているってわけ。てか、霊魂と肉体で別意識が宿ってた感じ? そんな能力が使えるなんてさらにレア度が増してるんですけど! さっさと捕まえてやるわけ」

 

 プロメテウスは不敵に口元を歪める。

 

「私を捕まえる? それは無理です。私はあなたの正体を見極めました。私があなたに負けることはありません……!」

「アタシの正体を見極めた……? 一体何の冗談なわけ? アタシは正体を隠してなんかいないんですけど……! ま、いいわけ。やれるもんならやってみろなんですけど!」

「言われなくてもやってあげますよ……!」

 

 妖夢はプロメテウス目掛けて走り出す。ジグザグに素早く動き、プロメテウスの視線を変えさせながら近づいていく。

 

「なるほど。さっきまでのお嬢ちゃんと違って少しは冷静なわけ。でも、そんな動きに惑わされるほどアタシは未熟じゃないんですけど?」

 

 プロメテウスは妖夢の不規則な動きを見抜き、球状のエネルギー弾魔法を放つ。エネルギー体は妖夢の体に直撃した……かと思われた。

 

「な!? 魔法がすり抜けたんですけど!?」

「残像ですよ……!」

 

 残像を残した妖夢は既にプロメテウスの背後を取っていた。妖夢はプロメテウスの胴目掛け、楼観剣を振り抜く……!

 

「なぁんちゃって! 残像に気付いてないわけないんですけど!」

 

 プロメテウスは妖夢の楼観剣を杖で受け止める。

 

「くっ!?」

「残念。確かにちょっとばかし動きは良くなったみたいだけどアタシには敵わなかったってわけ! そーれ、締め付けてあげるんですけど!」

 

 プロメテウスは杖から影を生み出す。影は手を形どり半霊妖夢の首を締め付ける。

 

「あっはは。気絶してからフラスコに入れたげる! 死なないでよ?」

「ぐ、ぐはっ!?」

 

 喉を絞られた妖夢は苦悶の息を吐き出す。

 

「それそれそれそれ! さっさと気絶するんですけど!」

 

 プロメテウスはさらに影の手に込める魔力を高めた。それでも妖夢は気を失わないでいた。

 

「はぁ……。思ったよりしぶといんですけど! 仕方ないから首の骨を折るわけ! 死ななかったら骨折を直して捕まえたげる! 死んだときは……ま、ドンマイって感じ?」

「う、が、ぁあ……あ……?」

 

 プロメテウスはより一層の魔力を加えた。妖夢のか細いうめき声が響く。

 

「とどめなんですけど!」

 

 プロメテウスが勝利を確信した時である。彼女に一瞬の隙ができた。半霊妖夢は首を折られる寸前でその隙を突く……! 半霊妖夢の抜いた短刀『白楼剣』がプロメテウスの胸部に突き刺さる。

 

「う……あ……? な、なにが起こったわけ……?」

 

 プロメテウスの体から魂が飛び出し、空へ消えていく。同時に影の手の力も緩まっていった。妖夢は首絞めから解放され、ぜぇぜぇと肩で息をする。プロメテウスはその場で倒れ込む。

 

「……あ、危ない……所……でした。……やはり、この女はキョンシーやフランケン・シュタインとかいう化物と同じ類の存在だったようですね」

 

 妖夢は独り言をつぶやく。

 

 白楼剣は魂を強制的に成仏させる剣。しかし、生者の魂を斬ることはできない。肉体と魂の繋がりが強力であるからだ。しかし、キョンシーなどの死体と魔法で結ばれている魂には効力を持つ。キョンシーたちの魂の定着は生者のそれよりも格段に落ちるからだ。

 

 半霊妖夢は見切っていたのである。プロメテウスの体が既に死者のものであることを。気付けたのは幽々子の『死を操る程度の能力』があまり効かなかったことからだった。生者を死に追いやる幽々子の人智を超えた力。それが効かないのを観察した半霊妖夢はプロメテウスが『死者』であることを見抜けたのであった。

 

「あなたのいう不老不死とは『死者』のまま生きるということだったのですね。それを不老不死ということに私は疑問を覚えますがね」

 

 半霊妖夢は倒れたプロメテウスに声をかける。もちろん返事が返ってこないのを承知の上で……。

 

「さて、幽々子様をあのフラスコとかいう瓶からお助けして差し上げなければ……」

 

 妖夢は倒れたプロメテウスを仰向けにすると、ローブの隙間から胸元を探る。

 

「……たとえ、女同士だからって、胸元に手を入れるなんてデリカシーがないんですけど?」

 

 妖夢は聞こえるはずのない声にびくっと恐怖する。プロメテウスの顔を見ると、そこには不気味に見開かれた双眼が妖夢を見つめていた。

 

「そんな!? な、なんで生きているんです!?」

「死んでるんですけど!!」

 

 プロメテウスの魔法が妖夢の右胸を貫通する。槍のように尖らせた影が妖夢を撃ち抜いたのだ。影を抜かれた妖夢は悲鳴を上げながらひざまずく。

 

「な、な……んで……。……確か……に魂を斬った……はず……。魂の気配……もひとつ……だけだった……。それ……なのに……!?」

「あーあ。クッソムカつくんですけど! 『わけ』ちゃんがいなくなっちゃったんですけど!」

 

 プロメテウスは文句を垂れながら立ち上がる。

 

「残念だったんですけど。アタシが『普通』だったらアンタの勝ちだったんですけど! ま、『わけ』ちゃんがいなくなったのは痛いけど、ここまで弱らせれば捕まえるのは容易い感じ?」

 

 プロメテウスはフラスコの蓋を開け、妖夢に向けて構える。

 

「な……んで? 確かに斬ったのに……」

「いつまでぶつぶつ言ってるのかしら? ……ま、いいんですけど。アタシの最高傑作に傷をつけることができたご褒美に見せたげる。アタシの芸術的作品を……!」

 

 プロメテウスは自身の胸に手を当てる。胸から出てきたのは……グロテスクな形をした魂だった。複数の魂が変形し、つなぎ合わされている。脳細胞を繋ぐニューロンのように軸索に変形した魂がまた別の魂と結合されていた。胎動するその魂は異様な不気味さを醸し出していた。魂の専門家である妖夢であったが、今まで見たことのない異質で異形なその魂に恐怖さえ覚える。

 

「な、なんですか……? そのおぞましい魂は……?」

「おぞましい? この魂の美しさがわからないなんて半分お化けちゃんは救えない感性の持主なんですけど?」

 

 プロメテウスは不快そうな表情でひざまずく妖夢を見下していた。


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