「い、一体どうなっているんですか……!? あ、あなたの人格は一つだけとしか思えない。複数の魂が繋ぎ合わされているのに、人格は統一されている……?」
妖夢はプロメテウスの異質な魂を見つめながら質問する。
「ま、完璧に一つの人格ってわけじゃあないんですけど? ちょっとした思考や嗜好や志向は残っちゃうんですけど。今、お前が斬ったのはこの魂の複合体を構成していた内の一つだけ。語尾に『わけ』を付けちゃってた人間の魂を成仏させてくれちゃったってこと。結構気に入ってた人格だったんですけど!」
プロメテウスは怒りを露わにした表情を見せつけると、胎動する魂の複合体を自身の胸に戻していく……。
「……複数の魂で一つの人格を形成している……。それなら……あなたの意識はどの魂にあるっていうんですか!?」
「意識の在処? 不思議なこと聞いてくるんですけど? それなら半分お化けちゃん、アンタたちの意識もどこにあるのかしら?」
「なんですって……?」
「だってそうでしょ? どうやらアタシの観察する限り、半分お化けちゃんの魂は一つしかないんですけど。じゃ、霊じゃない方の身体側の意識はどこにあるのかしら?」
「そ、それは……。……わ、私たちは一つの魂と一つの身体を共有しています。現に半霊の私ともう一人の私は知識を共有している……!」
「へぇ。そんな風にできてるんだ。じゃ、死んだら身体の意識も霊の方に移るってこと? そんな都合の良いことがあるとは思えないんですけど。そもそも死んで出てくる魂って本当に生きてた頃の人間の意識を持ってるのかしら?」
「何が言いたいんです!?」
「だってそうじゃん。意識の在処なんてわからないんですけど。脳のどこかにあるの? それとも魂? 仮に魂だとして、どうやって脳と同期してるの? もしかしたら魂っていうのは脳が持つ情報のコピーでしかない可能性もあるんですけど? じゃあ、やっぱり肉体が死んだときには肉体側の意識は消滅するってことなんですけど!」
「い、意味のわからない話をしないでください……!」
半霊妖夢は白楼剣を持つ手をプルプルと震わせながら口を動かす。
「この程度の問答が理解できないなんて半分お化けちゃんは頭悪すぎなんですけど?」
「うるさい……!」
妖夢は力を振り絞り、斬りかかるがプロメテウスに難なくかわされてしまう。
「あっはは。どうやら傷は深いみたいなんですけど。動き鈍すぎなんですけど!」
プロメテウスは剣を空振りした妖夢の横腹を蹴り飛ばす。
「さーて、フラスコに閉じ込めてあげるんですけど!」
妖夢の体を内部へ誘おうとフラスコの口が掃除機のように周囲の空間を吸い込んでいく。妖夢はなんとか吸い込まれる範囲の外へ逃げ出す。
「ちょろちょろしないでさっさと吸い込まれて欲しいんですけど……!」
「誰が吸い込まれてなどやりますか! ……うっ!?」
半霊妖夢は頭痛を感じ、頭を押さえる。
「こ、こんな時に何をしているんですか!? あなたの腕では敵わない。そんなことはあなた自身が解っているでしょう!? ここは私に任せてください……!」
半霊妖夢が独り言を話し出す。……正確には二人言だが。
『たしかに私では敵いません。しかし、それはあなたも同じでしょう……? ……あれをやるんです……!』
半人妖夢が半霊妖夢に頭の中で語り掛ける。
「本気で言ってるんですか……!? 修行でも一度も成功したことがないのに……!?」
『ですが……やるしかありません!』
「失敗すれば、いつものように一日体が動かせなくなります。すなわち敗北を意味するんですよ!?」
『でもやるしかありません。奴の不老不死がどんなものかは知りませんが、肉体を消滅させれば少なくとも行動不能にはなるはず……! それだけのエネルギーを出力するにはアレしかありません……!』
半霊妖夢は思考する。しかし、熟考する時間などない。プロメテウスの魔の手が迫る。
「『一人作戦会議』は終わったかしら? ま、どんな手で来てもアタシには勝てないんですけど!」
プロメテウスは杖からエネルギー光線を放出する。一直線に妖夢へ迫るレーザービーム。光線が妖夢の体全体を覆いつくす。 プロメテウスの攻撃が治まると……、そこに妖夢の姿はなくなっていた……。
「あっはは。影も形も残さず消え去っちゃったんですけど! 激レアを捕まえられずに殺しちゃったののは残念だけど、まあドンマイって感じ?」
プロメテウスは勝利の余韻に浸っていた。しかし、その背後から声がかけられる。
「勝手に殺さないでください」
虚を突かれたプロメテウスは目を見開き、振り返った。
「は、半分お化け!? いつの間にアタシの後ろに……!?」
「……危ないところでした。『成功』していなければ今頃、あなたの言う通り殺されていたでしょう」
「く!? これでも喰らうといいんですけど……!」
プロメテウスは妖夢に高速ビームを撃つ。しかし、それが妖夢に当たることはない。妖夢はプロメテウスの視界から消える。
「な!? ど、どこに行った!?」
「こっちですよ」
再びプロメテウスの背後から聞こえる妖夢の声。
「そ、そんな。全然見えなかったんですけど!? お前一体どうやって……!?」
妖夢は一呼吸置いて話し出す。
「『心身一体』……。私たち半人半霊は体と魂が同調したとき初めてその力を十全に発揮することができるのです。今まで修行でも一度も上手くいかなかったのですが……、あなたという強敵を前にして本能が後押しをしてくれたのでしょう」
「心身一体? 同調? ……何アンタ、合体したってこと?」
「合体ではありません。思考、体の動きが全てもう一人の自分と一致するということです。……はぁああ!」
「く!? ああ!? 痛ったああああああ!?」
妖夢が気合を入れた直後、プロメテウスの腕が切断された。目にもとまらぬ超スピードで妖夢が斬ったのである。
「そ、そんな、斬撃が全く見えなかったんですけど……!?」
「手加減はしません。幽々子様を返してもらいます!」
妖夢は見えない斬撃をプロメテウスに無数に浴びせていく。プロメテウスの体は宙に浮いたまま、バラバラに切り刻まれる……。
「……喰らえ! 半人半霊の全身全霊を!」
「い、いやぁあああああああああああああああああ!?」
妖夢の放つ巨大な斬撃がプロメテウスの頭部に直撃する。プロメテウスの頭は斬撃で完全に消し飛ばされた。バラバラにされたプロメテウスの肉片だけが白玉楼の敷地に転がり残される。
「や、やった……」
妖夢はぜいぜいと肩で息をしながら、剣を杖代わりにして何とか立っていた。心身一体が解け、とてつもない疲労感が妖夢を包み込む。しかし、妖夢の顔は強敵に打ち勝った満足感で綻ぶのだった。