「た、魂にも肉体にも依存している……ですって?」
「そ!」
妖夢の問いかけにプロメテウスは端的に短い発声で答える。
「つ、つまりあなたは魂が消されても肉体があれば生きていけるし、肉体が消されても魂が残っていれば生きていける……。そう言っているんですか!?」
「だからそうだって言ってるんですけど?」
「そんなデタラメ信じられるはずがない……! そ、それならあなたの意識はどうなっているんですか!?」
「また、その質問に戻っちゃうわけ? いい加減しつこいんですけど!」
プロメテウスは『はぁ』と溜息を吐く。
「だからぁ、意識の在処なんてわからないって言ってるんですけど! 魂にあるのかもしれないし、脳にあるのかもしれないってわけ!」
「そ、それなら、あなたは一体何なんですか!? 不老不死の能力を魂にも肉体にも依存していると言い切っているあなたは……!? 肉体だけが残ったこともあるのでしょう!?」
「ええ、もちろんあるんですけど。あの時は最悪だったわ。アタシの記憶情報を管理していた魂がそっくり全部あの世に持っていかれっちゃったんですけど! もちろんそんなことをしやがったヤツは速攻殺したわけ。その後が大変大変。魂回路網をもう一度作るのに優秀な魂を殺し集めて、肉体にあるアタシの記憶情報を移行しなくちゃいけなかったんですけど!」
「うっ……。本当に何を言っているのかわからない……」
妖夢は気分が悪くなっていた。おぞましいプロメテウスの魂を見たとき以上に……。プロメテウスのまるで『自我』さえも道具の一つだとしか思っていなさそうな発言に、生理的嫌悪感を覚える。プロメテウスは自分のことを説明していてテンションが上がってきたのか、妖夢が聞いてもいないことを口にし始めた。
「科学こそが正義だと信じるバカな人間たちは、仮想現実なんてのを作ろうとしてるって話じゃん? 記憶情報を電子に置き換えて箱の中に閉じこもろうとしてるなんてアタシからすれば理解できない行為なんですけど!」
妖夢はプロメテウスの話を聞くが、何のことを言っているのかさっぱり理解できないでいた。プロメテウスの仮想現実という言葉は、一部の妖怪を除いて、外の世界のおよそ百年前の技術力の中に生きる幻想郷の住人には伝わるはずがない。もちろん妖夢にもだ。しかし、そんな妖夢に目も呉れず、プロメテウスは話し続ける。
「ま、記憶情報を『霊子』にしてるって点じゃ、アタシも現代人たちとあんまり変わらないわけ。……アタシは霊子生命体でもあり、有機生命体でもある。要するにアタシの魂は肉体のバックアップであり、肉体は魂のバックアップでもある。おわかりかしら? 半分お化けちゃん!」
「……正直に言ってあなたの言っていることは半分もわかりません。一つだけ言えることは……、あなたはあなたであって、あなたでないということだけです……!」
「アタシがアタシじゃない? それこそ何言ってるかわからないんですけど?」
「だってそうでしょう!? あなたという存在は複製に複製を重ねた偽物でしかない……! あなたは固有の存在ではない……!」
「うーん、そんなことはないんですけど。アタシの場合はちゃあんと、魂の複合体と肉体である脳内情報を『同期』させてるから。『同期』させてない普通の人間たちと一緒にされたら困るわけ。……でも、そんなこと言っても理解できない半分お化けちゃんにはこの言葉で誤魔化しておく方が逆に理解してもらえるかしら?」
妖夢はプロメテウスの妙に自信たっぷりな顔が気に食わず睨みつけていた。だが、睨みつけながらも耳を傾け、唾を飲み込む。
「『我思う。故に我あり』、アタシたちからすれば大分後輩の男が残した言葉なわけ。突っ込みどころはたくさんある言葉だけど……、アタシ自身の存在を語るならこれが一番適してるんですけど! アタシが複製だろうと何だろうと関係ないわけ。アタシが最高最強のネクロマンサーになるという思いを持ち続ける限り、アタシはアタシであり続ける……! 自我の在処なんてどうでもいいってわけ! ……あーあ、アタシとしたことが熱くなって喋りすぎちゃったんですけど! もう終わらせるわけ!」
プロメテウスは空のフラスコを持ち出し、妖夢に口を向ける。『心身一体』の後遺症で体がボロボロになっている妖夢にはもう逃げ出す力は残っていなかった。妖夢はフラスコに飲み込まれる。小さな悲鳴だけを残して……。
「やったぁ! 激レアゲットなんですけど! 捕まえるのに苦労した分、アンタは最高の作品の材料にしたげる。感謝してほしいんですけど!」
プロメテウスは妖夢を吸い込んだフラスコを眺めながら口元を歪めるのだった。