「そうだ! どうせならこの半分お化けちゃんとピンク髪の亡霊を合体させてあげるんですけど! この二人仲が良いみたいだし。きっとうれしいわけ! アタシってとっても優しいんですけど!」
プロメテウスは妖夢と幽々子が封じ込められたフラスコ二つを両手で掲げ、愉悦の笑みを浮かべる。
「そうなると……、まだ全然死体が足んないわけ! お母様の用事が済んだら……この幻想郷とかいうコミュニティの妖怪を分けてもらうんですけど! ……さて、お母様から依頼されていたことは終わらせたから……、アタシは趣味の時間に入らせてもらうわけ!」
プロメテウスはフラスコをローブの懐に収めると、周囲を見渡す。……プロメテウスの趣味とは言わずもがな、魂と死体を集め、それを弄ぶことだ。彼女は冥界に目ぼしい『獲物』がないかと視線をあちこちに向ける。
「はぁ。大した魂がいないんですけど。ま、しょうがないよねぇ。優秀な死体や魂になりうる存在はそうそう簡単に死なないし! ……うん?」
プロメテウスは何かに気付く。白玉楼の敷地内に立つ大きな桜に彼女の視線は釘付けにされた。立派な桜である。白玉楼周囲に並ぶ樹と比べても二回り、三回りは大きい。しかし、プロメテウスが興味を持った箇所はそんな見た目上のところではない。
「……とんでもなくデカい生命エネルギーを持ってるみたいなんですけど?」
プロメテウスは遠目から桜を観察し、その異常性に気付く。白玉楼に生える桜……、『西行妖』は植物とは思えぬ生命エネルギーを内包していた。あまりに巨大なエネルギーに興味を惹かれたプロメテウスは西行妖へと近づいていく。
「樹とは思えないほどのエネルギーを宿してるんですけど……! ピンク髪や半分お化けと戦ってるときには全然気づかなかったわけ。意図的にエネルギーが漏れ出さないようにされいるのかしら……?」
プロメテウスは自身の分析を確認するようにつぶやいた。そして、また一つ疑問が彼女の脳裏に浮かんでくる。
「この樹、極東によく植えられている桜とかいう種類のはずなわけ。たしかピンク色の花を咲かせるはず。……これだけの生命エネルギーを宿しているのに、花を咲かせていないどころか葉っぱ一つ生えてないわけ。一体どういうことなわけ?」
プロメテウスがさらに分析を続ける中、不意に彼女の背中に悪寒が走る。
「……なに? このエネルギーの動きは……? ……もしかして、桜がエネルギーを吸収している……?」
西行妖は植物とは思えぬ速度で大量のエネルギーをその身に吸収していた。……にも関わらず、西行妖の枝から芽が生える様子はない。つまり、西行妖が集めるエネルギーは別の何かに消費されている可能性が高いのである。プロメテウスは意識を西行妖に集中させ、内部を探っていく。そこには、プロメテウスの大好きな『アレ』があった。
「こ、これは死体……!? し、しかもただの死体じゃないわけ! 今この瞬間にも桜が集めるエネルギーを消費し続けている。す、凄いんですけど! 超激レアじゃん!」
興奮したプロメテウスは西行妖を壊して『死体』を取り出そうとするが……、彼女の放った魔法は西行妖に跳ね返される。
「なんて堅い樹なわけ!? これ以上大きな魔法を放出したら内部の死体も損壊しちゃうわけ! 一体どうしたら……。……そっか。死体がエネルギーを消費し続けてるんなら、桜に供給されているエネルギーを遮断すれば……。いや、そんなことしたら、エネルギーを消費している死体にエネルギーがいかなくなって死体が自壊する可能性もあるわけ。どうしよう……」
しばし、考え込むプロメテウス。しかし、すぐに結論に行き着いた。
「そうだ! なら、逆にこの樹にエネルギーを過剰に注ぎこんでみるわけ! どうやら、この桜は死体を封印するために意図的に花が咲かないようにして植えられてるみたいだし。限界までエネルギーを供給すれば、死体にも何か動きがあるかもなんですけど!」
新しい玩具が目の前にあるのに手にすることができないプロメテウスは我慢できない子供のようになっていた。今の彼女にリスクの概念は頭にない。ただ、眼前の「特異な死体」を手にしたい。その思いだけで動いてしまっていた。プロメテウスは西行妖に対してマジックアイテムであるフラスコを向ける。
「うふふ。このフラスコの中にはたっくさん生命エネルギーを蓄えているわけ。本来は骸骨兵士(スケルトンソルジャー)や人造人間(フランケン・シュタイン)たちを動かすために使うもんだけど、特別に超激レア死体(お前)のために使ってあげるんですけど!」
プロメテウスは西行妖に生命エネルギーを注ぎこんでいく。葉も芽もなかった西行妖にわずかに芽が生えてくる。しかし、その段階でフラスコ内のエネルギーが尽きてしまう。
「う、うそでしょ!? このフラスコいっぱいに貯めてたエネルギーでも足りないってわけ!? し、仕方ないんですけど!」
プロメテウスは自分の持つ『コレクション』の中から価値の低いものを取り出し、それらをエネルギーに変え、さらに西行妖に供給し続ける。
「さぁ。これだけ、私のコレクションを犠牲にしてるんだから。超激レアじゃなかったら……、肩透かしだったら許さないんですけど……!」
プロメテウスが愚痴をこぼす中、西行妖の芽が少しずつ生え揃い、そして……、桃色のつぼみが美しい花を咲かそうとしていた。
「もう少し……なんですけど!」
プロメテウスはとどめとばかりに自身の魔力も西行妖へと注ぎ込む。
……西行妖は満開を迎えた。美しい桜の花が白玉楼を淡い紅色で包み込む。日本人であれば、その美しさに目を奪われたに違いないだろう。しかし、日本的美しさに疎いプロメテウスにそこまでの感動はなかった。一瞬だけ、花が綺麗だとは感じたであろうが、すぐに彼女の興味は西行妖に封じられているであろう『死体』に向けられる。
「さあ、花を咲かせてやったわけ。出てきてくれるんでしょう? 超激レア!」