東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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魔理沙対因幡てゐ

 おそらく、巨大イノシシと魔理沙の戦闘に気付き、様子を見に来たであろう白い大狼は魔理沙に向かって「ガルルルル」と威嚇する。

 

「なんちゅうデカさなんだぜ? そんなにデカいなら私を食べたって腹の足しにならねえんだぜ?」

 

 魔理沙は大狼に向かって見逃すように提案するが、聞き入れられるはずもない。狼は鋭い牙と爪を立てて魔理沙に襲い掛かる。

 

「くっ!? こいつは……マジックアイテムを出し惜しみしてる余裕なんてなさそうなんだぜ!? ……これでも喰らえ!」

 

 魔理沙は円筒を持ち出し、狼に向かって投げつける。狼の足元で破裂したそのアイテムから粘り気のあるピンク色の液体が飛び出し、狼の足元に広がる。液体に足を取られた狼は動けなくなる。

 

「どうだ! 私の特性鳥もちは! そんでもってこれも喰らいやがれ!」

 

 魔理沙はまたも魔法陣が描かれた羊皮紙を取り出し、狼に向けて魔法を射出する。

 

「スターダスト・レヴァリエ!」

 

 星形の魔法が無数に出現し、狼に次々と命中していく。

 

「どうだ!?」

「グルルルル……!」

「そんな……! 全然効いてないんだぜ!?」

 

 スターダスト・レヴァリエに全く動じてない狼は足に着いた鳥もちも力づくで解除する。

 

「くっそ。その辺の動物なら絶対に身動きできないくらいのトラップなのに……。なんて馬鹿力なんだぜ!?」

「ガウ!!」

 

 狼は鋭い爪のついた前足を振るい、魔理沙に攻撃する。爪の直撃は避けた魔理沙だが、肉球部分で殴り飛ばされた。

 

「うっぐ!? ち、ちくしょう……」

 

 イノシシからのダメージも引かぬ間にさらに狼からのダメージも喰らってしまった魔理沙の体はすでにボロボロだ。もう一発でも狼の攻撃を喰らってしまえば、立ち上がれなくなってしまうだろう。

 しかし、狼は攻撃の手……、もとい足を緩めることはない。次の瞬間には魔理沙に向かって駆け出していた。

 

「いい加減にしろ!」

 

 魔理沙は煙玉のようなものを狼の頭部目掛けて投げつけた。玉から出た紫色の毒霧が狼の眼を襲う。狼は痛みでじたばたとのたうち回る。

 

「へへ……。全部使ってぶっ飛ばしてやる……!」

 

 魔理沙は羊皮紙を3枚取り出すと、狼に向ける。その全てから魔理沙の最大魔法『マスター・スパーク』が放たれる。狼はイノシシ同様、完全に消え去った。

 

「……手持ちのマジックアイテムが全部なくなっちゃったんたぜ……。もう出てこないでくれよ……?」

 

 魔理沙は再び妖怪が出てこないことを祈る。しかし……。

 

「あーあ、イノシシも狼もやっちゃうなんて大したもんだね。思ったよりやるじゃないか。計算外だよ。私自ら相手しないといけなくなっちゃったじゃないか」

「お前……!」

 

 魔理沙の眼前に現れたのは長い耳を頭に生やしたウサギ妖怪『因幡てゐ』だった。

 

「出てきやがったな、この詐欺ウサギ! 今の口ぶりだと……、さっきの妖怪二匹はお前の差し金か!?」

「詐欺だなんてひどいなぁ。私は騙してなんかいないよ。それにしてもイノシシも狼も可哀想なことさせちゃったな。まさか、あんな魔法を使えるとはね。……正確には『使えた』なのかな? 二体とも綺麗さっぱり消しちゃうなんて……」

「やっぱりお前の差し金か。とんでもないやつなんだぜ。そんなに一円が欲しいのかよ!?」

「一円なんてホントはどうでもいいんだけどさ。……仕方ないなぁ」

 

 てゐは右手人差し指を魔理沙に向けると……レーザー状の弾を無数に打ち出す。

 

「うわぁああああ!?」

 

 魔理沙は咄嗟に逃げ出す。当たれば命はない。

 

「どうやら、もうマジックアイテムはないみたいだね。それじゃあ、体一つで頑張ってもらわないと」

 

 てゐは魔理沙に対して攻撃し続ける。時にはゴルフボール状の魔法弾、時には人間大の巨大魔法弾、時にはレーザー状の魔法弾を使い分けて……。

 

「どうしたんだい? 動きが鈍くなってきてるよ?」

「はぁ、はぁ、はぁ……!! う、うるさいんだぜ……!」

 

 てゐの言う通り、魔理沙の動きは鈍くなっていた。仕留めようと思えばもう仕留められるはず。それなのに、てゐは魔理沙にとどめを刺そうとはしない。ギリギリ避けれるレベルの攻撃を仕掛け続けていた。『……どうやら、私をいたぶって楽しんでいるみたいだな。趣味の悪いウサギだぜ』と心中で魔理沙は思う。

 

「ほらほらほら! さっさとどうにかしないと本当に殺しちゃうよ?」

 

 てゐの魔法攻撃が続く中、魔理沙はピタと動きを止める。もう限界だった。

 

「どうした? もう諦めるの?」

「…………」

 

 魔理沙は答えない。諦めたわけではない。ないが、もう疲労困憊でどうにもならなかった。てゐは魔理沙に歩み寄ると眼を合わせる。

 

「……若いくせに根性ないなぁ……。もっとシャキッとせんかい!」

 

 てゐは魔理沙の頬を張り手した。ふっとばされた衝撃で魔理沙のエプロンから六角形の何かがこぼれ出る。……ミニ八卦炉だった。地面に転がったミニ八卦炉にてゐは気付かず、踏もうとしている。自分にとって思い入れのある道具が傷つけられようとしている。それを見た魔理沙に戦闘意欲が戻る。

 

「踏むんじゃねえ!!」

 

 魔理沙は怒りのままにてゐに向かって手をかざす。掌から一つの星くずが放たれた。てゐは星を避けようと飛び退く。

 

「……やればできるじゃないか。ま、ちょっと遅すぎるけどね」

「……魔法が使えた……?」

 

 魔理沙は自分の掌を見つめて呟く。たしかにミニ八卦炉を踏まれそうになった怒りで多少冷静さは失っていた。だが、魔法を使うと無意識に決心したとき、魔法を使えるという確信がなぜか不思議と湧き出ていた。

 

 魔理沙は気付く。今、ここは『いつもの幻想郷と変わらない、運を奪われる前の幻想郷と一緒だ』と。

 

「ここは運に溢れている……?」

「やっと、気づいたのかな?」

 

 てゐは笑いながら魔理沙に問いかける。

 

「でもまだ不十分だ」

 

 てゐは魔法弾を撃ち、魔理沙をその場から動かす。魔理沙は反撃とばかりにもう一度魔法を発動しようとする。しかし……。

 

「……今度はやっぱり使えない……!? 一体全体どうなってるんだぜ!?」

「まだ、完全に気付いたわけじゃないか。でも魔法使いの本能でなんとなくわかってきてる感じなのかな?」

 

 そう言いながら、てゐは足元に転がったミニ八卦炉を拾いあげると魔理沙に放り投げた。

 

「なんで私に渡すんだ?」とミニ八卦炉をキャッチしながら魔理沙は問いかける。

「言ったでしょ? 魔法を使わせてやるってさ。それを装備してた方が気分が上がるんでしょ? ……霧雨魔理沙、感じ取れてるかい?」

「感じ取る? 一体何のことなんだぜ?」

「どうやらまだ追い込みが足りないか。もっと激しくしてあげなくちゃね……!」

 

 てゐは先ほどまでをも上回る数の魔法弾を撃ち放つ。

 

「うわわ!?」

 

 魔理沙は焦りの声を上げながら再び逃げ回る。逃げ回りながら思考していた。なぜさっきは魔法を使えたのか、と。魔理沙は今まで幻想郷の運を無意識で使っていた。だから今回の異変でも幻想郷から運が消失したことに気付けなかった。

 だが、先ほど久々の魔法を放った時は感じ取ることができたのである。この幻想郷の『運』を。魔理沙は初めて幻想郷の運を意識したのだ。

 しかし、条件がわからない。どうしてさっきは魔法が使えて今は使えないのか……。

 

「まさか、そんな単純なことなのか……?」

 

 魔理沙は一つの推測を立てる。それを確かめるためにてゐの攻撃を避けながら移動し続ける。そして再び辿り着く。先ほど魔法を使えた場所に……!

 

「スターダスト・レヴァリエ……!」

 

 魔理沙の魔法は発動された。間違いない、場所だ。運が有る場所と無い場所があるのだ。魔理沙は恥じる。魔法を使えないショックで……自分に運がないことを知ったショックで幻想郷から全ての運が奪われたのだと思い込んでしまっていたことを。

 

「でもそれじゃ、意味ないんだよね!」

 

 てゐは魔理沙の繰り出した星屑を避けながら魔法弾を撃ち返す。

 

「それは魔法を使えた場所を『暗記』しただけだろう? もっと集中しなよ。 そして感じ取れ……!」

「くっ!? 感じ取れだって……!?」

 

 魔理沙は動き回りながら感覚を研ぎ澄ます。すると気付く。一定の場所を通るときに自身の体に魔力が宿る感触があることに……。

 

「……ここだ……!」

 

 魔理沙は感触を覚えた場所で魔法の使用を試みる。

 

「コールド・インフェルノ!」

 

 光の魔法がてゐ目掛けて発射された。魔理沙は完全に確信する。幻想郷の運は全てが奪い取られたわけではなかったのだと、限られた範囲だがまだ残っているということを。

 

「ようやく、少しは感じ取れるようになったみたいだね。『龍脈』を……!」

 

 てゐはにやりと笑うと魔理沙を見やる。

 

「龍脈……?」

「そう。幻想郷を幻想郷たらしめているものさ。『龍穴』と『龍穴』を結ぶ龍脈。運を噴き出す地脈のことだよ。でも、自分の体が龍脈上を通るときにしか運を感じ取れないようじゃあまだ合格点は与えられないよね……!」

 

 ……たしかにそうだ。と魔理沙は思う。龍脈とやらの上でしか魔法を使えないのなら、龍脈の位置を正確に把握しないと自分が意図するタイミングで魔法を放つことができない。『たまたま龍脈があったから魔法を撃てた』ではとても戦闘では使えないのだ。魔理沙はより一層精神を研ぎ澄ます。龍脈を感じるだけでダメだ、龍脈を……運のある場所を見抜けなければ……。てゐの魔法攻撃によりプレッシャーをかけられた魔理沙の精神は限界を超え、龍脈を見つけ出せるように進化し始めていた。

 

「ここだ……。このライン上に『運』がある……!」

 

 魔理沙は細く走る龍脈を『発見』すると、ミニ八卦炉をかざす。自分の力で放つのは久しぶりだ。大声でその魔法名を叫ぶ。

 

「マスター・スパァアアアアアク!!」

「……そんな細い龍脈を見つけるか……。合格だよ、霧雨魔理沙」

 

 因幡てゐは魔理沙の放つマスタースパークに飲み込まれるのだった。


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